幸せごはん


「っ……ああ、もう……」

ぐす、ぐす、と鼻を啜る音と小さな声が校舎裏で聞こえる。
誰かが泣いているのだろうか、そっと身を潜めて声がする方を見ると女人が泣いている。

「…どうして泣いておられるのだ?」

「…っ、誰…って颯馬くん…」

「ななし殿……」

ななし殿はプロデュース科の生徒であり、「くらすめいと」である。
また、我が初めて好きになった女人でもある。
…ただ、ななし殿本人は我の気持ちには気付いていないだろう。
我はそっとななし殿の顔を覗き込むと目を赤くし、
相当泣いていたということが分かるほどだ。

「……何か辛いことが…」

問いかけようとすると、気にしないで、とあっさり言われてしまった。
まるで、これ以上聞くなとは言わんばかりに。
すると、ななし殿のお腹からぐるるる、と音が聞こえた。

「…泣いたらお腹減った」

「ならば、我が腕によりをかけて何かを作ろう」

答えを聞く前にななし殿の腕を引いて厨房に足を運んだ。
我が料理をしている間もななし殿は曇ったような表情でどこか遠くを見ていた。
いつもの明るい愛らしい笑顔が見えず、
問いただしたくなった。
問いただしてもななし殿から笑顔が見えるとは限らない。
知っていても我はどう言葉をかけていいか分からないであろう。

「ななし殿、召し上がれ」

我が差し出した料理を見ると少し表情が変わった。

「…食べていいの?」

我は勿論、と頷けばななし殿は手を合わせて小さな声でいただきます、と言って食べ始める。

「…ななし殿、いかかであるか?」

蓮巳殿も鬼龍殿も我の料理を絶賛してくれるが、
正直ななし殿の口に合わなかったらどうしようかと不安でいっぱいである。
一口口にしたところで、ななし殿は箸を置いた。
やはり、ななし殿の口には合わなかったのだろうか。
すると、ななし殿は口を開いた。

「颯馬くん…、あのね…すっごく美味しい!」

そういったななし殿は、とても愛らしかった。
さっきまでの悲しげな表情はガラリと変わり、
今では眩しいくらいの笑顔を浮かべている。
我自身にもななし殿を笑顔にすることが出来るのだと知ってこの上なく嬉しい。

「凄いね!颯馬くん!」

「ななし殿が喜んでくれるならいつでもお呼びくだされ♪」

我が上機嫌でいるとななし殿は

「ありがとう、颯馬くんは将来いい旦那さんになれそうだね」

そう言ってニコリと笑った。

「ななし殿、それはどういう…っ!?」

我が慌てて聞き返せば、内緒、と唇に人差し指を当て可愛らしく言った。


幸せごはん
ななし殿と共に食事を作り、食べる日常があればどんなに幸せだろうか


辛くても美味しいものを食べると元気が出るはず。
ご飯を食べながら幸せな気持ちになってたときに思いついた話。

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あからこ

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