思いがけない恋文


※巫女ヒロイン。中編とは全く別です。
寧ろ中編の巫女に会ってなかったら…なパラレルワールド。
中編を読んでなくても問題ないです。



しんと静まり返った放課後の図書室。
今日は誰もいないため所謂貸切状態というやつだ。
これなら落ち着いて読書ができる。
そう思いながら本棚に近づくと、人影があった。
しかし、その人影は本棚の下の方でしゃがみ込んでいる。

「貴様、何をしている」

そいつは肩をビクリとさせると恐る恐る俺の方を見上げた。
どうやら女子生徒のようだ。
顔は見覚えがあるが、名前までは知らない。

「あ、あの……」

少し俺を怯えるような目で見て立ち上がり、
失礼します、とだけ言って立ち去った。
そんなに俺は怖いのだろうか。
…まあ、生徒会に所属し、厳しく取り締まっているからだろう。
しかし、しゃがみ込んで何をしていたのだろうか。
俺は気になり、その本棚の下の段を見る。
ここの本棚は小説の書き方についての本が置いてある。

「なるほど…」

俺は納得し、ついでにそこに女子生徒が忘れたであろう原稿用紙のようなものを発見した。
その原稿用紙の下に小さく名前のようなものが書いてある。
“しゃかにょらい”
…これは、ペンネームだろうか。
『釈迦如来』とは仏の名前ではないか。
ふと、俺は思い出した。
自分が漫画を描いた時に使っている名前を。
その名前が、神の名前であることを。

「もしかすると…」

俺はその生徒のクラスを知っているため、
女子生徒の教室に足を運んだ。
教室に行くとまだ明かりがついている。
廊下から中を伺うと、女子生徒はなにやら必死に書いているようだ。

「失礼する」

俺が教室に足を踏み入れると、
女子生徒は驚いた顔でで俺を見る。

「え…っと、あの…」

「これを渡しに来た、貴様のだろう?」

女子生徒は原稿用紙を見ると恐る恐る受け取り、
確認すると

「はい、間違いなく私のです。
どうして、私のだと……って、さっきそこで居たからですよね」

そう言ってヘラりと笑った。

「それもあるが、貴様は俺の寺の近くの神社の娘だろう。
それくらい分かって当然だ」

「え……なんで知って………」

そうだ、こいつは俺の実家の近くにある神社の娘で
巫女をしていたはずだ。
確か、名は…

「ななし…だったか」

「は、はい」

「俺は漫画を描くのが趣味でだな、
実家は寺だが名前を────」

「『ミズハノメ』ですよね?
神様の名前ですのでとても気になってたんです」

俺が言う前に言い当てられた。
やはり関わっている者だと、分かってしまうものだろうか。

「『ミズハノメ』さんの…いえ、蓮巳副会長の絵がすごく好きなんです。
学院に掲示されているポスターの絵を見た時にとても素敵だな、って思ったんです」

「ほう、それは有難い」

やはり、直接褒めて貰えるのは嬉しいものだ。
もしかしたら、ななしは英智のように、
俺が『ミズハノメ』だということに初めから気付いていたのかもしれない。
互いに神の名を、仏の名を名乗ることに少し親近感を覚えた。
それに、こうして何かを創り出すというところが共通している。
正直、どんな小説を書いているのかが気になる。

「……おい、もし嫌でなければでいいが、
俺はななしの小説を読んでみたい」

「…っ!?」

「…無理にとは言わん」

俺がそう言うと、まだ途中ですが…、と原稿用紙を数枚差し出してくる。
俺はそのまま受け取り、原稿用紙に目を通す。
読み終えるとななしは恥ずかしい、と言わんばかりに顔を赤らめる。

「文章といい、言葉の選び方といい、美しいと思う。
……だが───」

「っ……!」

俺の言いたいことが分かったのだろう、ななしの瞳が揺らいだ。

「この小説の登場人物にモデルはいるのか?」

ななしが書いたこの小説は、住職と巫女の恋物語だ。
住職は頭が堅く、頑固。
巫女は控えめで大人しい。
これは考え過ぎかもしれないが、まるで登場人物が
俺とななしのようだった。

「も、モデルは………っ」

ななしは答える前にそそくさと鞄を持って教室を出ていってしまった。

「…考え過ぎか」

そう言って再び手元の原稿用紙を見ると一部だけ、消しゴムでやたら消した部分がある。
そこをよく見るとどうやら名前を間違えていたようだ。
しかし、筆圧で薄らと訂正前の文字が見えてしまった。
解読できた瞬間、きっと俺の顔は赤く染まっていただろう。
俺は原稿用紙を持ってななしを追いかけた。


思いがけない恋文

『私は一目見た時から蓮巳さんをお慕い申しておりました』

そんな大切なセリフの名前を間違えられると
気にならない訳が無い。


蓮巳さんが『ミズハノメ』ってペンネームを使ってると聞いて、
じゃあ、逆に神社なら仏様の名前でも使うの?
とか思ったのが発端。
一応中編とはパラレルワールドって感じで、
中編の1話目で蓮巳さんが読んでた小説がきっとこれ。
中編だと作者を知らないまま読んだんでしょうね。

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あからこ

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