※成長金吾





空にキラキラと輝く星はない。満月だけが闇夜を照らすようにボンヤリと浮かんでいた。



今回の旅は命懸けだった。家で俺の帰りを待つ名の存在を支えに、俺はひたすら無我夢中に足を動かした。刀だって抜いたし、それで何人か人を殺めた。


見慣れた風景が視界の隅を流れ、俺はやっと帰ってきたのだと唇を噛み締める。






『おかえりなさい。』



俺が約一ヶ月ぶりに聞いた名のそれはとても小さくて掠れた声だった。



「…もう寝てるんじゃないかと思ってた。」



なんせ、日付を跨いだ真夜中の帰宅だった。具体的に今日帰れるという文を送った訳でもない。だが、あれやこれやと考える前に、真っ先に俺の心を満たしたのは喜びや安堵だった。
少しでも早く名に会いたい、と疲労しきった足を無理矢理走らせたことは無駄でなかったのだ、と俺は歓喜にうち震える。



( …顔が見たい。 )



そう思って名の頬に手を添えた。

どこか疲れきった顔付きだった。目の下に色濃くできた隈がそれを物語っている。




「…しばらく寝てないのか。」



俺の言葉に頷く名にそっと口付けた。

無事で良かった、と俺の背に手を回す名。そんな彼女に俺はただ、痩せたな、と呟いた。





『…金吾だって傷だらけじゃない。』

痕が残るわね。


彼女が俺の身体に指を滑らす。そして肩を震わせて言う。




『…長かった。』

「ああ。」

『金吾が死ぬかもしれないと思うと眠れなかった。』



その瞬間、名が瞳を潤ませる。
この薄暗い部屋の中で、光を反射する彼女の瞳が何とも幻想的だった。





「俺はこの通り生きてる。」

『…うん。』



今度は名が俺に口付けた。






「ゆっくり眠るといいさ。」



彼女を布団の上で横にしてやる。そしてお互いに握った手を放すことはなかった。






『…金吾。』

「ん?」


『おかえりなさい。』


「…ただいま。」




それを聞いた名がやっと弱々しく微笑んだ。




( 闇に融ける )

どうか私を置いていかないで。