『ねぇ、はっちゃんってば!』

『助けて勘ちゃん…。』

『またお前か三郎!』

『ほんと優柔不断だなぁ、雷蔵は…。』








『豆腐君?』


…いくらなんでもこれはあんまりだと思う。




「…豆腐君。」


反復するように俺はそう呟いた。

これは「ネーミングセンスww」とかいう次元の話じゃないと思うんだ。





『え、だって三郎がそう呼んでやってくれ、って。』

そしたら豆h…、久々知君が喜ぶからって。



どうやら三郎の言葉を素直に信じてしまったらしい姓さん。

それに、常日頃の俺の豆腐への愛がその言葉を後押ししたのかもしれない。


…とりあえず三郎は後で絞める。

心の片隅でそう考えながら、俺は戸惑った様子の姓さん頭に手を置いた。



好意を持っている相手に名前で呼ばれたいと思うのは、特に珍しいことでもないと思う。
下の名前とまでは言わなくたって、せめて名字ぐらいはまともに呼ばれたい、と思っても罰は当たらないはずだ。


豆腐を愛していることとこれとでは、全くの別問題である。





『ごめんなさい、久々知君。』

「姓さんが謝ることじゃないよ。」


久々知君、姓さん。

俺は未だに他の皆みたく姓さんに名前で呼んでほしいと言うことが出来ない。




「まあ、それはいいとして俺に何か用?」

『あ、そうそう。土井先生が久々知君にね、』


そう言って彼女がごそごそと取り出したのは





「豆腐屋、割引券?」

『近所のおばちゃんに貰ったんだって。』


キリ丸に取られる前に久々知君に渡してほしいって言われたの。

ケラケラと笑いながら言う姓さん。




「へぇ、土井先生からなんて嬉しいな。」

『よかったね、久々知君。』



ニコニコ

彼女の笑顔にはこの効果音がよく似合う。







「姓さんは何か好きなものは?」

『私?』

「うん。」

『そうだなぁ…。』



あれとこれとと名さんが口にするものは、女の子らしい可愛いものばかりだ。

俺はそんな彼女の言葉に頬を緩める。




『あとね、久々知君。』

「ん?」

『久々知君。』

「えっと、それはつまり…、」

『私、久々知君が好き。』



そう言って俺の手を握る姓さん。

これは「俺もだよ。」と手を握り返してもいいのだろうか。




「それは、その…。友達として、っていうことかな?」

『ううん。』



こんな羞恥プレイ…。久々知君ってば意外にS気質なんだね。でも、そんな久々知君も好きだよ。

と、頬を染める彼女。


…これについては喜ぶべきか否か判断し難いところだ。いっそのこと聞かなかったことにしようと思う。








「俺も、姓さんが好きだ。」

『…ほんと?』

「うん。」



俺はゆっくりと頷いた。








「…俺と付き合って下さい。」

『…はい、喜んで。』



俺はギュッと彼女を抱き締めた。





( そっと君の額にキスを落とす )