※乙女な仙蔵様に注意




『仙蔵の髪ってほんとに綺麗。』


名はいつもそう言って私の髪に指を通す。





「まあ、元の質がいいからな。」


私が得意気にそう言ってみせれば、名はあっさりと『そうだね。』と肯定してみせる。
こいつのこういう所が苦手なんだと、少し熱を持った顔で思った。

文次郎のように「自分で言うな、バカタレ。」とでも言ってくれれば、私だっていつもの澄まし顔でいられるのに、と。


サラスト1位なる称号を与えられた私にとって、「綺麗」なんて言葉は珍しくもなんともない訳で。私は自分でもそれを自負している。

そんな私が、たった一人の女の言葉で頬を染めている、なんてことが知れればどうなるだろうか。


名に触れられるのは嫌じゃない。
むしろ心地好いと感じる自分がいるのだ。


繊細に、まるで割れ物でも扱うかのような手つきで触れるものだから、私の方も柄でもなく緊張してしまう。


ドクドクと音をたてる心臓を押さえつけ、なんとか心を落ち着けようと大きく深呼吸してみれば、名の訝しむような視線を感じた。
お願いだからこれ以上に私の心臓を追い詰めないでやってほしい。



『嫌だった?』

どうも私が嫌がっていると勘違いしたらしい名が手を引くのを感じて私は焦った。


「い、嫌じゃない。」

『ほんと?』

「あぁ…。」



よかった。

そう言って名が緩く笑ったその瞬間、肩に感じた重みに私は飛び上がりそうになった…のをなんとか堪える。



『…嫌だったらすぐに言ってね。』

そしたらもうしないから。


どこか申し訳なさそうに言葉を続ける名だが、肩から伝わるこいつの体温に私はそれどころじゃない。



いつも名が私にするように、私は思わず名の髪をといてみた。

そしたら名が擽ったそうに肩を上げて笑うものだから、私は少し嬉しくなる。




『仙蔵に髪を触られたのなんて初めてね。』


でも私の髪、すごく傷んでるから恥ずかしいよ。

そう呟いた名。



少し癖っ毛な名と私とでは、やはり髪質が違う。

フワフワとしたそれに、私は何度も指を絡ませてみた。傷んでいるかどうかなんて気にならない。

何だか癖になりそうだと思った。

毎日のように私の髪を触る名もこんな気持ちなのだろうか。





『仙蔵?』

「ん?」

『今度一緒に町に行こうよ。』

「そうだな。」




私の心臓はやはり五月蝿かった。

こうやって毎日、心臓に負担を与え続けていたら、私はいずれ早死にするのではないかと頭の隅で考える。





行ってみたい甘味処があるの。




だが、こうやって楽しそうに話す名がこうも愛しい。

名と一緒にいられるならそれでもいいかもしれない。






( この心臓が止まるまで )


君の隣にいられればと願う。