『か、返して!』 名が声を荒らげた。 またか、と呆れ顔の級友たちの視線を浴びながら、私は自分の手を頭上で高々と掲げてみせる。 名はチビだなぁ、と意地の悪い笑みを浮かべてみせれば、名の瞳が涙で潤むのがわかった。 小平太なんてもう知らない。 そう言い残して駆けていった彼女の背中を目を追えば、通りかかった伊作に慰められる姿。 それに私は思わずムッと顔をしかめてしまう。 私も急いで後を追いかけて二人の元に近付くと、私と同じようにしかめ顔を浮かべる名に苛立ちが募った。 自業自得と言われても、気にくわないものは気にくわない。 私は手に持っていたそれを名に向かって放り投げ、直ぐ様に踵を返したのだった。 一体どうして自分がこんな仕打ちを受けないといけないのか、と私は鼻を啜る。 私の頭をよしよしと撫でてくれる伊作君にガバッと抱きついた。 小平太も不器用だね、と伊作君は言ってみせるけれど、私にしてみれば堪ったもんじゃない。 顔を合わせれば何かとちょっかいをかけられ、コンプレックスを指摘され、私の心はズタズタである。傷心旅行にでも出たい気分だ。 私がそう口にすれば、伊作君は困った顔をしてみせた。 「小平太も名の事が嫌いな訳じゃないんだ。」 わかってやってくれ。 そう留が口を挟む。 そう言われても、と納得できない気持ちはあったが、私は渋々と頷いて手の中のそれ、髪留めをギュッと握りしめた。 「お互い気になって仕方ないはずなのに。」 彼女のいなくなった部屋で伊作はそう呟いた。留三郎もそう思うでしょ?と。 「…そうだな。」 「好きな子をいじめちゃう、なんてよくある話だけど、それは下級生の頃だとばかり思ってたよ。」 「小平太は身体だけ先に成長しちまったような奴だからな。」 「何それ。小平太に失礼なこと言うなぁ、留三郎は。」 「そういう伊作も笑ってんじゃねぇか。」 「まあ、そうなんだけど。」 伊作はクスクスと笑いながら、お茶の入った湯飲みに口をつけた。 「早くくっつくといいのにね、あの二人。」 ( 青春日和 ) さっさとくっつけ、もどかしい。 |