名先輩、僕と一緒に飼育小屋へ行きませんか。

ポッと頬を染めながら孫兵がそう言えば、先輩は笑顔でいいよ、と答える。

孫兵は先輩のことが好きだ。だからこうやって何かと機会があれば先輩に話しかける。



(…何だよ畜生。)



孫兵の甘え上手め、と心の中で呟いた。
そんな俺の右手には左門、左手には三之助の着物の袖が握られている。
両手に花ならぬ、両手に方向音痴。

俺はそっと溜め息をついた。



「どこ行くんだよ、お前ら…。」



あっちだ、こっちだ、と走り出す二人に俺の身体は右往左往。
それでも決して手を離さないのは、悲しきかな、慣れである。


名先輩の方にチラリと視線をやれば、

バチッ

先輩と目があった。


俺は慌てて目を背ける。


作兵衛、っと名前を呼ばれた気がしたけれど、俺は決して振り向かない。
そしたらもう一度俺を呼ぶ声が聞こえた。さっきよりもずっと近くで。


名先輩だ、ワー、キャー、と左門と三之助の二人がはしゃぐけれど、俺はそれどころじゃなかった。

ドキドキドキドキ

自分の心臓の音がまるで身体全体を揺らしているようだ。



『作兵衛、先輩と遊びましょ?』



いつもの調子で先輩が首を傾げる。
俺より年上で、容姿だって年相応なのに、中身は凄く子供っぽい。

そんな先輩に、俺は先程の孫兵みたいに顔を赤らめて、ボソボソと口を開いた。



「…でも孫兵が、」

『それがさぁ、』


竹谷に連れていかれちゃったの。


その言葉に、俺は顔から一気に熱がひくのを感じた。

竹谷先輩が現れなかったら先輩は俺の所に来てくれなかったんですね。

そんな声をグッと喉元で飲み込んだ。

…先輩が来てくれて嬉しいのも事実だから。


こうやって恋慕の念を抱いているのだって俺の一方通行。
先輩にとって俺や孫兵の存在はただの後輩にすぎないだろうから。


遊ぼうよ、と俺を誘う先輩の言葉に、俺は素直に頷けなかった。




行ってきなよ。


俺の気持ちに気付いているらしい数馬や藤内が、そう言って俺の背中を押す。


二人は僕たちに任せて。

作兵衛は妄想癖をなおして、もっとプラス思考になった方がいいよ。


俺の肩をポンと叩いて、行ってきなよと手をヒラヒラと振る。

ああ、持つべきものは友達、っていうのはこういうことなんだな。

なんて考えながら、ありがとう、と俺は小さく呟いて名先輩の元へと走り出した。




「…何して遊ぶんですか?」

『それはこれから考えるの。』

「…先輩らしいですね。」



先輩らしい。だから嫌じゃない。

俺は思わず笑い声をもらした。

先輩もそれにつられるように笑う。


『作兵衛と一緒にいたかったのよ。』


そう言ってケラケラと笑う。





名先輩、
俺、名先輩が好きです。







( その一言で舞い上がる )



俺の想いが貴方に届く日はくるのでしょうか。




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リクエスト作品。

ツンデレは大好物だけど、どうしても自家栽培できないことを痛感しました←

作→←ヒの両片想い。

リクエストありがとうございました!