「今日の委員会は塹壕掘りだー!」



わー!、と盛り上がっているのは委員長である七松小平太ただ一人。
そんな彼に「今日はどこまで掘るんですか。」、と滝夜叉丸が冷静に問いかけた。
どこかへ姿を消そうとする三之助を引き留めることも忘れずに。



「裏裏裏山!」


小平太の言葉に、皆逃げ出したくなる気持ちを抑えるのに精一杯だった。前がボヤけて見えてたりなかったり。



「…と、言いたいところなんだが。」



だが、そこで小平太は不服そうに口を尖らせる。



「名に止められてしまってな…。」


たまには後輩のことをもっと労わってやれと言われたんだ。

委員長を除く体育委員会一同、先程とは別の意味で涙を流すこととなった。
まさに女神。後で先輩である彼女に是非ともお礼の言葉を述べなければ、と皆心の中で誓ったという。




「だから裏裏山までにすることにした。」



どーん、と腰に手を当ててそう言い放った小平太に、彼らは静かに肩を落とすのだった。

先輩それだと…、



『裏が一つ減っただけだろうが。』



彼らの思いを代弁したくのたまこそが噂の彼女。
長屋の方から歩いてくる彼女に向かって、名先輩、と彼らは口ぐちに名を呼んだ。




「ああ、一つ減らしたぞ!」

『それだと大して労わってることにならないじゃないか。』

「?」



彼女の言葉に小平太は不思議そうに首を傾げた。
それどころか名も一緒に掘るか?とまで尋ねる始末だ。



『私が塹壕掘りは得意じゃないんのは知っているだろう?…得意だったとしてもお前のペースにはついていけないよ。』

「じゃあ、マラソンならどうだ?この前の勝敗がまだついていないしな。」

『そういえばそうだったか。』



名は思いだしたように掌をポンッと叩く。




「今日こそは決着をつけよう!」

『ふっ、今回こそは私が勝ってみせるさ。』

「え…、あの、先輩方?」

「それじゃあ、裏裏裏山まで行ってより早く学園に戻ってきた方が勝ちだからな!」

『分かった。』

「あの…。」



後輩達の言葉など露知らず。
二人は凄い勢いで学園を飛び出して行ったのだった。





「…行ってしまわれた。」

「…僕達はどうしたらいいんでしょうか?」



呆然と立ち尽くす滝夜叉丸に四郎兵衛が声を上げる。




「…名先輩も負けず嫌いだもんね。」

「普段はお優しくて冷静な方なのだが…。」



少し単純なところが…、とは誰も口には出さない。

自分達のためを思って委員長に物申してくれはずが、いつのまにやら最終的には自分達のことなんてほっぽり出していってしまったのだから。







「…僕達も後を追いますか?」



そんな金吾の提案に、一同はそれぞれ「そうしようか。」と頷くのだった。







「あのペースだと、僕達が裏山にいる頃には先輩方はもう裏裏裏山で折り返しているかもしれませんね。」

「ああ、そうだな。…こっちだ、三之助。」




「…先輩方の体力は底無しですからね。
僕らにはついて行けませんよ。」

身体が持ちません。


そう泣き言をひとつ。







( 色めく紅葉の秋衣 )


とか何とか言いながらも、そんな先輩方が僕らは大好きなんですけどね。




20111010.体育の日