ごく一般的な家庭の町娘の出でありながら、その動作や言動にはどこか気品漂うものがあった。
落ち着いた性格であるのだろう。他のくのたま達と騒ぎ立てたりすることもなく、暇さえあれば一人で何かを考え込んでいるような少女だった。

そんな彼女の纏う雰囲気には何だか近寄りがたいものがあり、そのせいか彼女に関わろうとする者はそう多くはない。



事情はどうであれ、そんな彼女に声をかけられるなんて、我ながら貴重な体験をしたと思う。







「…またやっちゃった。」

転んだ拍子に打ち付けた腰を擦りながら、僕は廊下に散乱した備品を拾い集める。

周囲に人がいなかったおかげで、この不運に他人を巻き込まなかっただけ幸運なのかもしれない。
そうやって少しでも前向きな考えを意識はしているものの、やはり落ち込んだ気持ちを隠すことはできなかった。



不運。

僕のことを説明するならこの一言がピッタリだ。


この忍術学園に入学してからようやく一月が経つか否か。
それにも関わらず、僕が蛸壺に落ちた回数ははやくも学園のトップに輝こうとしていた。
保険委員の先輩方の記録を打ち破る日も近いだろう。

だから、そんな僕がこうやって保険委員の備品をぶちまけていることなんて珍しくも何ともないんだ。思わず溜め息が漏れた。



そんな時、俯いていた僕の視界に影がかかった。


『…手伝うよ。』


高くもなく低くもない、だけど落ち着いた耳に心地好い声音。


顔を上げた僕の目に入ったのは噂のくのたま1年生。

彼女をこんなに至近距離で見たのは初めてだった。


僕が驚いている間にも彼女は手早く備品を拾い上げて、それを僕に差し出した。


「あ、ありがとう…。」

『どういたしまして。』


情けなく発せられた僕のお礼の言葉に、小さく微笑んだ彼女。

僕は顔に熱が集まるのがわかった。


それじゃあ、と去り行く彼女の後ろ姿を見えなくなるまで見つめてしまい、我に返った時の僕の顔はさっきよりも凄く熱かった。


( はやく保健室に行かないと…。)


今度は転ばないように足元に注意しながら歩く。


( 綺麗、な子だったな…。)


彼女のことを思い出すと何だか照れくさくなった。

先程までの注意力はどこへやら。
保健室へ向かってパタパタと走り出した僕。





腕の中にある備品をギュッと握りしめた。





( 噂のあの子 )