ニャー


その小さな声に耳をそばだてた。
声の聞こえる方へ歩みを進めて、そっと軒下を覗き込む。
そこにいたのは小さな白い猫だった。


何でこんな所に猫がいるのだろう。

そんな疑問を覚えながらも、おいでおいで、とその子を呼んだ。
だけど猫はニャーニャーと鳴き声をあげるだけで、私の呼び声に応えない。

どうしたことかと頭を悩ませる。

私はもう一度おいでと手招きした。



すると猫は耳をピクピクと動かして、私の方へ覚束ない足取りでやって来た。
私はゆっくりとその子を抱き上げる。

白い毛がすっかり黒く汚れてしまっていた。


どこから来たの。
お母さんや兄弟はいないの。


猫は尚もニャーと鳴くけれど、残念ながら私にはこの子が何を言っているのかわからなかった。


差し出した私の指を一生懸命に吸う様に、お腹が空いてるんだね、と私はその場で立ち上がる。
何が餌になるようなものを貰うべく食堂へと向かいながら、この子をこれからどうしようかと考えた。

この学園がペット禁止だとは聞いたことがない。
ペットを飼ってる先輩だっているし、そもそも生物委員会なるものがあるのだから、猫一匹連れ込んだところで何か問題になることもないんじゃないかと思う。

もし引き取り先がなければ私が預かろうかと、腕の中の仔猫を眺めた。






「あら、どうしたの?」


食堂のおばあちゃんは仔猫を見るなり「…随分と衰弱しちゃってるわねぇ。」と急いで食べ物と布を用意してくれた。

これで汚れを落としてあげて頂戴、と手渡された布を使って、私は慣れない手つきでゆっくりと仔猫の毛を拭いた。



「迷い猫?」

『…わかりません。軒下にいたのを見つけたんです。』


もしかしたら飼い猫かもしれないし、私も色んな人に聞いてみるわ。


そう言ってくれたおばちゃんにお礼を言って、私は再び仔猫へと視線を落とす。
どうやら食事を終えたらしい猫はゴロンと横になっていた。











「猫?」



わあ、可愛いね。

白猫か。

小さいな。


各々が感想を溢しながら、眠る仔猫を覗き込む。




「菖蒲が飼うのか?」

『まだ分かんない。』


ツンツンと猫を小突いてみせる小平太の手を払いながら、文次郎とそんなやり取りをする。



「その時はまた知らせてくれ。」

『…仙蔵、猫好きなの?』

「…。」



「菖蒲、私も触っていいか?」

『今は駄目。』







( 軒下からこんにちは )




みんなこの子に興味津々みたいだ。