「何だとお前!」

「お前の方こそ何だってんだ!」


私の目の前で睨みあう二人。


「俺はただ鍛錬に付き合ってくれ、って頼んだだけだろうが!」

「だからそれがダメだ、って言ってんだよ!」

「まあまあ、二人とも。」


そう言って二人を宥める伊作には、とんだトバッチリもいいところである。
私と目があった彼の表情には苦笑いが浮かんでいた。



「どうしようか?」

『どうしよう?』


今度は二人揃って苦笑いだ。





事の発端はこうである。



委員会が終わったところだった私は、その帰りに偶然は組の2人に出くわした。
最近の授業のことだとか、今日の委員会のことだとか。
そんな日常的なことについて会話を交わしていた。


そこに現れたのが潮江君。

潮江君とは先の合同授業以来、二言三言の言葉を交わしたぐらいの関係だ。

暇な時にでも鍛錬に付き合ってほしい、というお誘いに、私なんかでよければ是非、と答えながら、まだそれが実行されたことはなかった。

今日の委員会は特に辛いものでもなかったし、潮江君への再挑戦の機会を待ち望んでいた私だったから、二つ返事で了承したのだ。

だが、そこで反論を唱えたのが留三郎。

留三郎は凄く心配性だ。
不運と名高い伊作と仲が良いことも一因なのかもしれない。
初めての委員会でのランニングからの帰宅後、先輩の背中におぶさった私を見て声にならない悲鳴をあげた彼の表情は、未だに私の記憶に根付いている。

委員会後の私を労わってやれ、という何とも友達思いの留三郎の言葉だったのだが、少し言い方が悪かったみたいだ。
彼の言葉は潮江君の気に障ってしまったらしい。



そんなこんなで冒頭の部分に至る訳である。

どうも、二人は気が合わないらしい。
今なんて私に一切関係ない話で論争を繰り広げている。

伊作の話によると、二人の仲は前々からあまり宜しくないそうで、どっちも喧嘩っ早い性格だから、こういうことは初めてじゃないんそうだ。


伊作も大変だね、と言えば「まあ、僕もよく人に迷惑かけるから。」だって。

伊作は本当に気性が大らかな子だ。




その後、とうとう取っ組み合いの喧嘩になった二人は、各委員会の先輩のお叱りを受けていた。
最初こそ何だか申し訳なく思っていた私だが、これは致し方ないことだと思う。



潮江君への再挑戦はまたの機会ということで、私は食堂へと夕餉を食べに行く。

二人へのお説教はまだまだ長引きそうだから、私と伊作とで二人の夕餉も確保しようという話になった。




( 本日のメニューは )


A定食かB定食どちらにしますか?