立花仙蔵。 私は密かに彼に憧れを抱いていた。 彼の成績は、忍たま1年生の中でもトップクラスなのだという。 他人が自分のことをどう言おうが関係ない。 そんな強さを感じさせる凛とした立ち振舞いや、見るものを惹き付けるその美しい容姿。 遠目に、そして一方的に、私は彼へ羨望の眼差しを向けていたのだった。 彼とは会話したことがないどころか、視線を交わしたことさえもない。 私は彼のことを何一つ知らない。 あくまで一方的に、私は彼の強さに憧れていたのだった。 「文次郎、」 「すまん、今は手が離せんからまた後でな。」 「…分かった。」 忍たま長屋を通る私の目に入ったのは、彼と彼の友人らしき人。 その友人に見覚えがあると思ったら、先日の合同授業の際に相手をして貰った忍たまだと思い出す。確か名前は潮江君。 その潮江君に了承の返事をしながらも、彼の背中はどこか寂しげだった。 いくら気丈そうに見えたところで、彼にも何かしらの弱味はあるだろうし、それが人のそれより重いか軽いかなんて私には測りかねることだ。 私は彼が強い人間だと勝手な理想像を抱いていたのかもしれない。 そんなことを考えていたら、クルリと振り返った彼と目があった。 その瞬間、彼はキッとした顔をして、そのまま私に背を向けて走り去ってしまった。 彼にとって先程の出来事は見られたくなかったものかもしれない。 だとしたら、何だか悪いことをしてしまったような気になって、私はポリポリと頬をかく。 彼に嫌われてしまっただろうか、と私は項垂れながら、目的地である職員室へと歩き出した。 「態々どうもありがとう。」 助かったよ。 私から資料を受け取った土井先生はそう言って笑う。 先生は今年に就任したばかりの新任の先生で、まだまだ慣れないことが多くて苦労しているそうだ。 『私なんかでよければいつでもお手伝いします。』 と、言葉を残して私は職員室を出た。 廊下を歩いて行けば、先程の立花君を見かけた場所へと差しかかる。 「『・・・・。』」 そこには走り去ってしまったはずの立花君が腰かけていた。 何だか空気が気まずく感じられて、私は思わずその場で立ち止まってしまう。 「さっきは…、」 そんな中、彼が口を開いた。 「無礼な態度をとって、すまなかっ、た。」 段々と小さくなる彼の語尾。 きっと彼はちょっとした意地っ張りなんだと思う。 あくまでこれは私の見方だが。 『…ううん。』 私は首を横に振った。 『潮江君と仲いいの?』 「…ただの同室者だ。」 そんな話をしながら、許可を貰って私は彼の隣へおそるおそる腰かける。 「お前は文次郎と知り合いなのか?」 『いや、この前の合同授業の相手だったから…。』 「そういえばそうだったな。」 納得したような風の彼に、私は何だかよく分からない親近感を覚えた。 今までだとごく稀に廊下や食堂で見かけるだけだった彼と、こうやって話していることがとても不思議。 「そういえば自己紹介がまだだったな。」 彼が思い出したように名乗ってくれた。 『私は三条菖蒲だよ、立花君。』 だから私も自己紹介し返したのに、彼は「知ってる。」なんていうのだ。 『何で?』 「風の噂だな。」 納得は出来なかったけれど、ふーん…、と私は相槌をうった。 『私も立花君のこと聞いたことあるよ。』 「そうか。」 何てことない、他愛ない会話。 彼とは気が合いそうだ。 特に根拠はないけれど、私はそんな気がした。 ( 友達希望 ) ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ not恋愛← これからどうなるかはわかりませんが、現時点での菖蒲さんの仙蔵への感情は恋ではありません。 アンケートでは現在接戦が続いております。 オチはまだまだ未定ではございますが、今後の展開を見守って頂けたらと思います。 |