今日の委員会には2、3人のくのたまが仕事の手伝いに来てくれる、と委員長からの連絡があった。 そのくのたまが三条だったりしないだろうか…なんてことは思ってない。 だから目の前のくのたまたちが三条でなかったからといって、落ち込むなんてことは全くない訳で。 …まあ、少しだけ期待したのは認めようと思う。 くのたまと挨拶を交わした後は、早速道具を運ぶ作業に取りかかった。 これらの道具は、今度俺たち1年生が授業で使うのだという。 思ったよりも重量感のあるそれを俺は倉庫から実戦場へと運ぶべく、一人トボトボと歩いていた。 「ようし!それじゃあ裏裏裏山までランニングだ!」 「「「…おー!」」」 毎度お馴染み、体育委員会の元気な声が中庭に響く。 相変わらずハードな委員会だな。 そんな光景に自分は用具委員会でよかった、と幸せを噛み締めていた俺だったが、 『…おー。』 控え目に聞こえてきたその声に、俺は目を見開くのだった。 忍たま達の寒色系の装束の中に、桃色の者が一人。 俺は思わず腕の中の用具を落としてしまいそうになった。 「限界になったら休んでくれていいからな、菖蒲ちゃん。」 『…お気遣いありがとうございます。』 そんな声をかけられたところで、この真面目なくのたまは絶対にそんなことはしないのだろう。 俺はそう思った。 「…いちについてー、」 よーい、ドン! その掛け声で走り出した体育委員会一同。 黒髪を靡かせた桃色装束が、段々と薄れ行くのを俺は呆然とした面持ちで見送り続けたのだった。 「いけいけどんどん!」 私の前方を走る忍たま1年生。 彼の元気と体力は底なしなんじゃないかと思う。 私なんてこうやって着いていくだけで精一杯なのに、と私は足に鞭打って走り続けた。 足場の悪い斜面だとか雑草だらけの小道などを走り続けるのは、授業でのマラソンなんて比にならないくらい辛い。 何度も諦めようかと思ったけれど、あの忍たまの子の元気な様子を見て、負けるものかと私は意地になっていた。 足はフラフラだし、頭だってクラクラする。 それでも絶対に途中で諦めたくなかった。 意外にも負けず嫌いだと発覚した自分。新たな一面である。 裏裏裏山で待っていた委員長や先輩方が、「よく頑張ったな!」と私の頭を撫でてくれて、私は凄く嬉しかった。 この時ばかりは、いつもの表情を崩して素直に照れ笑うことができたと思う。 そんな時にふと感じた視線。 その視線はあの忍たまの子のものだった。 私だってそんなあからさまに凝視されれば気にもなる。 「三条!」 『…?』 「お前もあんな顔で笑うんだな!」 見られてた。 そう思うと、顔に熱が集まるのが分かった。 『貴方は、』 「私か?私は七松小平太だ!」 『七松君、』 「小平太と呼んでくれ!」 『小平、太!』 完全に目の前の忍たま、もとい七松小平太のペースに飲まれた私。 飲み込まれまい、と必死に意気がる私は声を張り上げた。 学園に戻るぞ。 そんな委員長の声が聞こえた。 彼にもそれが聞こえたのだろう、「行こう、菖蒲!」と私の手を引く彼に私は動揺する。 『七ま…こ、小平太!』 いきなり下の名前で呼ばれたことにも驚愕したし、何より手を握られたことが一番恥ずかしかった。 「こら小平太!菖蒲ちゃんの手を離しなさい!」 先輩のその言葉に小平太はいかにも不満気といった様子。 「菖蒲ちゃんは女の子なんだぞ!」 お前のペースで学園まで連れて行ったりしたら、菖蒲ちゃんの身がもたないだろう! 悔しいが、先輩の言う通りである。 恥ずかしながら、私の足はもう既に限界だった。 このままだと小平太に引きずられ、学園に到着した頃には私はボロ雑巾のようになってしまう。 「菖蒲、そうなのか?」 そう問いかける小平太に私は頷いた。 そうしたら、ようやく彼は私の手を離してくれた。 学園に戻る際、お言葉に甘えて委員長に背負われている私。 体力に自信があるとか何とか言っておきながら、なんて情けない、と思う。 どうやら私は自信過剰だったみたいだ。 行きと同じように目の前を走る彼にチラリと視線をやりながら、私はそう実感した。 「小平太は菖蒲ちゃんのことすっかり気に入ったみたいだな。」 ほら、またこっち見てる。 そう言って笑う先輩に、私は曖昧に濁した返事をするだけだった。 ( おいでませ、体育委員会 ) ‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 得意分野だと思ってたことで小平太に負けちゃったのが悔しい菖蒲さん。 小平太にちょっとしたライバル心です。 菖蒲さんのようなとっつきにくい設定の子でも、上級生にとっては可愛い後輩なんです。 |