「そういうわけで告られた」
「どういうわけ」

友人にそれだけ報告するとあからさまに呆れた表情をされてしまった。昨日、そのサッカー少年があたしと二人きりになりたいと申すものだから、友人には先に帰ってもらったわけで。その後の成り行きを話せと問い詰められたので、ありのままを話しただけだ。告られた。はいそれだけ。

「それだけじゃねーよ!てか私あの先輩知ってんだけど」
「ほう!友達だったんだ、それは知らなかった」
「そうじゃなくて!かっこいいって有名じゃん、むしろ何であんたは知らないの」
「ほう……」
「ほう、じゃないよあーむかつく!事の重大さが分かってないね、周りに知れたら大騒ぎだよ!先輩もあれだけ人気者でまさか後輩にフラれるだなんてきっと自分でも思ってなかったはずだよ」
「ふられるって何が?」
「何がじゃないよ、告られたんでしょ?」
「うん、だから」

OKしましたけど。あっけらかんと答えると一瞬黙った友人が絶叫した。「はあああああ!?」クラスの視線が私たちに集中する。

「付き合うことにしてみた。ちなみに昨日あのまま先輩が部活終わるの待って一緒に帰った。隣を歩いてみて思ったけどあの人は確かにかっこいい」
「確かにかっこいい、じゃないよあんた何をのん気に……泉はどうしたの!」
「孝ちゃん?孝ちゃんには告られてないよ?」
「いや、だからそういうことでなくて……!」

いや、わかってる。皆まで言うな。
だけど思うに、孝ちゃんがあたしをそういう対象として意識しない一番の原因はこれではないかと。うんと小さな頃から知ってるんだ。だからきっと孝ちゃんの私に対する印象もまだうんと小さな頃のまま。ならば変えてみせようと。すこしでも変わってくれたら、いいなあと。

孝ちゃん。あたし先輩に告白されたよ。あたしのことが好きだって。あたしと付き合って欲しいって。彼女にして価値ある女の子なんだって、すでに世界は認識してるよ。
孝ちゃん。あたし、ちゃあんと女の子に育ってるんだよ。

きっとほんの少しでも意識してほしかった。孝ちゃんがうちに遊びにくるとき、これみよがしに室内にブラジャーを干してみたり、ときには色気づいて化粧をしてみたり。だけどそのたび孝ちゃんは変なため息(たぶんあれは呆れというより嫌悪に近い)を漏らすだけでなかなか関心を示してくれない。ねえ孝ちゃん。あたしはちゃんと、女の子だよ。



「おまえサッカー部の先輩と付き合ってるってマジ?」

あたしの部屋で社会の課題を片付けながら孝ちゃんが唐突にそう切り出したとき、私の胸はすこし弾んだ。シャーペンを持つ指が小さく震える。うんと答えると孝ちゃんは一瞬黙った。

「……いつから?」
「んーと……一ヶ月くらい前?かな」
「ふーん……」
「……驚いた?」
「べつに」

べつに。ああそう。
(ていうかそれだけ?)どうにも胸のもやもやが晴れない。ただ無性に悔しくて。推古天皇、聖徳太子、憲法十七条、冠位十二階。淡々とワークを埋めていく孝ちゃんのシャーペンを睨みながら言った。

「ねえ孝ちゃん、ちゅうしたことある?」

ボキッ。折れたシャーペンの芯が机の上に放り出していた私の手を直撃した。ピシッ、痛い。は?と苦笑を歪ませながら聞いてきた孝ちゃんにただ告げた。

「あたし、昨日先輩とちゅうした」
「……それが何」
「うんだから、孝ちゃんは、あるのかなあと」
「ねえよバカ。つーかのろけならやめろよ、うぜえ」
「してみたくない?」
「……はァ?」
「してみようよ」

あたしと。孝ちゃんは黙る。あたしは孝ちゃんとちゅうしたかった。ずっと、ずうっと。ただそれだけ。
孝ちゃんは呆れたようにあたしを睨んでため息を吐いた。カチカチ。シャーペンの芯が復活する。

「ふざけんな、見境なしかよ」

信じらんねー。それからは再びワークに解答を書き連ねる。ひたすら。カリカリ。芯は折れない。
ええ、はい、まあ。何も本気で言ったわけじゃあございません。ただあたしが期待したのは孝ちゃんの頬のほんの少しの赤みに過ぎない。ほんの少しの動揺に過ぎない。ほんの、少しの。(私の中は愚かな期待やあてもない焦燥、繰り返し沸き立つ絶望でこんなにもこんなにもいっぱいなのに)
そしてとどめに。それもずいぶん涼しげに。孝ちゃんはこちらも見ずに吐き捨てたのだった。

「つーかお前、その孝ちゃんってのもうやめろ」
「……は?」
「いつまでもお互いガキじゃねーだろって話ですよ、"片桐さん"」


泣いてなんかやらない。あたしは孝ちゃんのことが、いや、いずみのことが、大嫌いだ。

喚けよ五等星
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