「いつからあそこでバイトしてんの?」
「んー、二週間くらい前」
「俺けっこう行くんだけどな。夜入ってんじゃねえの?」
「あー、今日は遅くまでだったけど大体昼から夜までだから」

ブランコが軋む。ちょっと喋ってこうぜーなんてことになってこうして近くの公園でアイスを頬張っているわけではあるが。しまった、と自分の発言に後悔する。案の定「え!」だなんて驚いた浜田が聞いてきた。

「じゃあ学校は?お前確か東京の高校行ったよな」
「……一年の三学期で中退してさー……つかよく覚えてんね」
「いや覚えてるだろー、けっこう衝撃だったもんよ」

衝撃?って何が?
へー辞めちまったのかーだなんて独り言のように呟く浜田に苦笑する。正直あんまり昔の話はしたくない。

「……浜田は今なにしてんの?」
「俺?俺は普通に高校行ってるよ。あ、今応援団やってんだ、野球部の」
「ふーん……」

その上バイトもしてるわけね。今の私にはそれすら充実しすぎて思える。なんだかすごい劣等感。(あれ?)アイスの棒をくわえながらふと気付いた。応援団?って言った、今?

「え、野球は?援団って……野球はもうしてないの?」
「あ、あー……うん、まあ」
「……肘の怪我のせい?」
「あー、まあそれもあるけど……つーか藤崎もよく覚えてんね」

うん、確かに。さっきまで顔も思い出せなかったのに。だけど話せば話すほど思い出せる。そういえば中学の頃の友達に会うのなんてしばらくぶりだ。

「もったいないなー……野球してる浜田、かっこよかったのに」

思わず呟くと浜田が一瞬黙る。顔を見ようとすると途端に横からドツかれた。

「や、やめろよお前ー!サラッと誉めんなよー!」
「げっ!何顔赤くしてんの、気色悪い」

やべー顔熱いだなんて言いながらブランコをこぎ始めた浜田に笑った。懐かしい空気。何で今まで忘れてたんだろう。

「てか浜田ってどこ行ったんだったっけ?」
「高校?西浦だよ」
「西浦……あー聞いたことある気がする」
「野球部でさー一個下だった泉って覚えてる?アイツも西浦で今同じクラスなんだ」
「ふーん……覚えてないけど」
「それがアイツ最近やったら生意気でさー!絶対元後輩だってこと忘れてやがんの。憎たらしいことに最近幼馴染みの女の子といい感じだしさー、何つーかもうアイツ、」
「いや興味ないけどさ。つーか、え?ちょっと待って、一個下と同じクラス?で、元後輩?って何?」
「……あ」
「まさか留年してんの?」
「あ、ははは」
「マジでー!何やってんの、バカじゃん!」
「う、うるせえなーもう!」

中退したやつに言われたくねーよ、とごもっともすぎる台詞を吐かれてグサリとくる。確かに出席日数が足りなくなってあっさり退学を決めたあたしよりも、もう一年頑張って通おうと決意した浜田のほうが何倍も偉い。だけどあたしは一個下の連中に混ざって勉強するだなんて勇気はなかった。かっこわるくて恥ずかしすぎることだと思ってた。

(でもそれが浜田だと、何でかかっこわるいだなんて思わないな)

あたしも都会なんかに憧れてないで、西浦に行っていたならもしかしたら。……西浦。

「……あ」

どこかで聞いたはずだと思っていた。いま思い出した。西浦って確か。

「ねえ西浦ってさ、確か一回戦桐青と当たるんじゃなかったっけ?」
「そうなんだよー、やべえよな去年の優勝校だぜ?……つーか、あれ?よく知ってんな、野球好きだったっけ?」
「ううんー全然。妹が桐青のマネやってるから知ってるだけ」
「藤崎って妹いたんだ」
「うん、一個下のね。でも中学は違ったから知らないでしょ」

その妹によると西浦野球部って公立の新設で、部員は一年生しかいないとか。ってことはつまり、浜田はまだ野球部のない時期に西浦への入学を決めたわけだ。もう野球をする気がなかったってこと?せっかくかっこよかったのに、と口をついて出そうになったがまた顔を赤くされたらウザいと思って黙っておいた。とにもかくにも、その西浦の応援団。

「……応援団って部活動なの?」
「え?いや、最近俺が作ったばっかなんだけど」
「わざわざ?」
「え、うん」
「あー……それは何というか、残念だったね」
「何でだよ」

浜田がむっとしたのでたじろいでしまった。でも、だって、何でも何も。

「だって絶対負けちゃうじゃん」
「分かんねえだろ、そんなの」
「だって相手桐青だよ?西浦って一年ばっかなんでしょ?そんなの誰が考えたって」
「でも『絶対』なんてねえだろ!元も子もねえこと言うなよ!」

怒鳴り散らした浜田に目を丸くする。単に大声に驚いたわけなんかじゃなくて、何だか。絶対なんてないなんて、そんなの当たり前のことを言われただけだ。だけど何か。何か。
浜田の今の台詞には、背筋がシャンとしてしまうような力があった。
 
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