絶対がないだなんて強い人が言う台詞でしょう。どんな過酷な現実よりも常に前向きな可能性ばかりを見つめていられる勇気のある人の使う言葉でしょう。
だけど望みはないというのに、そうと分かっているはずなのに、高瀬先輩があの人を好きでいるのは?私が高瀬先輩を好きでいるのは?
そうだ、好きだ。私は高瀬先輩が。目を逸らし続けていたけどやっぱりふとした瞬間に感じてしまう。心臓はしつこいほどに鳴いてやまない。本当はずっと、意識の奥底で自覚していた。もういっそ、傷つくのも全部覚悟でぶつかってみようか。

いつしか何かで読んだけれど、頭の中で想像し得る自分像はどれもが起こりうる現実であるらしい。ならば私がおこがましくも夢見てしまう彼の隣も?彼が憧れるあの人の隣も?

(ありえないだろう)

起こりうるから何だというのだ。それでも限りなく可能性が低いだろうことには違いない。過ぎ去る時間は取り戻せない中で、ほんの微量な可能性を掬い取るなんて器用な芸当私は出来ない。それでも今でも私が彼へ想いを寄せているのは、姉の言うとおり浅ましくも心のどこかがまだ望みを捨ててないから?高瀬先輩もそれは同じ?ねえ。どうなんだろう。

太陽は沈みかけていた。高瀬先輩は水分補給を怠らない。人一倍努力しながら人一倍自分の体に気を配っている。
ベンチに腰掛けながら無意識にか自分の手首を眺めて目を細める高瀬先輩。とてもまだ望みを持っているようには見えない。ふとした瞬間、いつもこの人は、寂しそうな顔をする。きっともう、とっくに全部諦めている。

「想い続けるだけの恋って、苦しくないですか」

どんなに想ったところで、自分へは何も返ってこない。そんなの辛くないですか、苦しくないですか。どうしてこんなことを、突然。まるで無意識に飛び出た自分の声に言葉に泣きそうになった。ほんの小さな声で言ったはずだったけど、彼はこちらを見て眉を寄せた。

「下手に見返り求めるよりかは、ずっと楽だよ」

吐き捨てるように言って練習に戻っていく後姿。ああやっぱり。この人は逃げている。いいや、私も。何か言い聞かすような口調であったのは彼が私に自分の影を見ているせいだ。報われない片想いに苦しむ私を、自らと重ねて見ているせいだ。
そうだ、きっと知っている。高瀬先輩を私が好きなことを、彼は。だってこんなに似ているのだから。

「先輩!」

呼び止めて駆け寄る。ポケットから取り出したそれを差し出すとかれは少し目を見開いた。

「……私だって、マネなんです。どんな想いでこれを作ったのか、分かります。そりゃ、ボロボロになってもう捨てちゃった人もいるみたいですけど……!高瀬先輩は捨てないでください、捨てちゃだめだと思います!」

必死な声で告げた。かなしかった。彼がすべて諦め背を向けてばかりなのが私は虚しい。まるで私にも何もかもを諦めろと無言で訴えられてるようで。

(かわいそう)

誰が、私が?それとも彼が?
傷ついてもいいだなんて本当は誰も思えないんだよ。

「……ごめんな」

呟いた彼が何に対して謝ったのかは分からない。けれどその声は確かに私に不可能を告げた。
太陽は半分地面に沈んだ。今日はあの人が来る。


もがく三等星
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