その頃の江戸は宇宙からの異物質によって思わぬ侵食を受けつつあった。侍の町として誇り高かった私たちの故郷は得も知らぬ異星人の侵入で汚されていっていた。
自分たちの住む場所に誇りを持ち自分たちの生き様に誇りを持つ人間たちがやつらを排除しようとするのは至極当然のことで自然なことで、刀をふるい立ち上がる者は少なくなかった。彼もその中の一人。たったそれだけのことだった。(だからさよなら。なんて、そんなの)
背にかかえたものがどれほど重たいのかその質量は知り得なくとも、ただ貴方の勇み足がいつだって重苦しいことは知っている。時には引きずっていることも知っている。
どこまで行くの。何が貴方の背中を押すの。そのさきに、いったいなにがあるというの。

白く気高い頭髪は風に揺れ、自ら血の海に飛び込んでいく。ああ綺麗だなんて能天気。そんなこと思う余裕すらあるわけもない。
取り戻すため?違う、どうしてそのために多くを代償にしなければならないのだ。
ねえ、どれほど失えば気がすむの。どれだけ多くを置き去りにしていくつもりなの。

「好き以外に何が足りないの?」

遠ざかる体温に問う。いかないでと一言言えなくてただ見上げる。かろうじて掴んだ裾を放したくて放せない。いつからだったろう、この着物に血の匂いがにじんできたのは。

「俺の器」

一言言った彼の唇が必死に笑う。
ああ最後まであなたはそうなのね。どこまでもふわふわと浮かんでばかりでおいてかないでと縋りつくことすらできやしない。
ねえお願いよ。待ってるから。いつまでだって、いつだって。
何度愛を伝えたって聞く耳を持たなかった彼に今更何を懇願したところで無駄なことは知っている。

ごめんな。最後となった謝罪のキスは、ふるえていた。



密葬ペレストロイカ

title/bamsen

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