思うに。大学のレベルによって入試問題にこうも分かりやすく性格が出るものなんだねえ、大したことない二流大学に限ってやたらひねくれた問題作ったりさあ、難易度は高くないにしてもこんな意図の読めない出題のされ方したら逆に分かんないっつーの。それに比べて何だろうね、やっぱ一流大学は違うわ!問題ひとつひとつが洗練されててひとつの問題でいくつもの要素を聞く周到さ。やればやるほど二流大学との質の違いが身に染みるよ。とはいえまあ、難易度自体は洒落になんないくらい高いから解けないことには変わりないんだけど。

「あーつまりお前がバカですとそういう話か」
「なぜそうなる」
「何やってもサッパリ解けませんサッパリわかりませんお手上げです馬鹿でごめんなさいむしろ生まれてきてすみません、ってそういう話だろィ」
「ぐ、う……」

言い返せない。しかし少しくらい察して欲しい。本命大学の入試を間近に控えた今の時期、ひたすらに頭に情報を叩き込むのにいささか飽きて、意味もなく入試問題の分析をしてみてしまう気持ちも分からなくはないだろう。現実逃避のひとつもしたくなるだろう、点数の悪さを問題の質のせいにもしたくなるだろう。

「なるほど昨年度の過去問で得点率53%ねぇ……とりあえずお前は去年受けてたら落ちてました、と」
「そういうこと言うのやめてくんない」
「スベってました、と」
「だからやめてくんない」
「そして本番まであと一ヶ月切りました、と。先月の模試の結果ではD判定でした、と。しかしそれ以降も成長は見られません、と」
「だからやめろよォォ!どうせ無謀だよ!私なんぞの学力じゃボーダーフリーの底辺大学しか狙えませんよ!どうせ頭に虫湧いてるよ!」
「そこまで言ってねーだろィ、まあ確かに受かる確率は2秒後に地球に巨大隕石が衝突する確率よりも低いがな。あ、もう2秒経った」
「え、もう何?死んでいい?」

ていうかむしろ本当に隕石落ちてくんないかな。地球破滅してくんないかな、そしたら受験とかもなくなるのに。
憎たらしいことに沖田総悟はわりと要領がいいらしい。ちょっと前までは私とどんぐりの背比べ並にモロ底辺な学力だったくせして、いつのまにやら私を小馬鹿にするまでに育ってしまった。同じように勉強をしているはずなのに部屋の中に響くシャーペンの音はほとんど私のものだけで、沖田といえば参考書とひたすら睨み合って記憶に集中している。私が一ページ進めている間に沖田は五ページ進んでいる。定期的に私が吐き出す弱音を沖田は涼しげにかわしていく。この差は何か。

「てめーの敵は俺じゃなくてそいつだろィ」

そいつ、と指された問題集には見飽きた英文がふんぞりかえる。

「張り合うんじゃなくて征服するんでィ、誘導さえ見極めりゃどうってことねェ雑魚ばっかりだ」

意味がわからん。
あーあーストレスたまるーどうにかならんか。ぼりぼり音を立ててポッキーを貪る。沖田は相変わらず参考書とにらめっこして時折マーカーを引く。

この時期と言えば、もうじき卒業も控えている。三年間ともに通った校舎も教室も、慣れ親しんだ机も椅子も、履き古した上履きも、全てが思い出にすり替わる。全てが幻想にすり替わる。テスト勉強のためだという二人で部屋で過ごす口実も、家が近いからと一緒に登下校する口実も、すべてが。いわば受験は、分岐点だ。こいつとこの先も一緒にいられるかどうかの。どっちかが落ちればその時点でサヨナラ決定。

「……まあそれはそれでいいかもしれん」
「なにが」
「いやー例え落ちたとしてもあんたと縁が切れると思えばせーせーするしね!何事もポジティブに考えようかと」
「ずいぶん投げやりなポジティブだな」
「だってやってらんないでしょ。やってらんないよ。この先この数学の方程式が何かの役に立つとは到底おもえないし」
「だったらお前の言うボーダーフリーの底辺大学でも行ってりゃいいだろ、そもそも何でG大受けることにしたんでィまた無謀な」
「だってアンタが行くって言うか、ら……ハッ」
「…………」
「…………」
「……プッ気色ワル」

はは。馬鹿な上に気色悪いとまで言われるなんてね。とことん投げやりになりそうだ。
だけどご機嫌にへたくそな鼻歌刻み始めたアンタもよっぽど気色悪いぞと言ってやりたい。

「なんのうた、それ」
「笑点のテーマ」
「ぜんぜんわかんないしとりあえず気が散るからヤメテ」
「こんなんで気ー散るくらいならダメだな、残念だが俺とのキャンパスライフは諦めろィ」
「言うじゃないの……ちくしょう見てろ」
「あー楽しみだーG大。食堂のメシがうめーらしいな」
「ふんもう受かった気でいやがる。わかんないぞーもしかしたら私だけ受かって沖田だけ落ちるかもよー」
「そうなったらお前もG大行く意味なくなるな」
「……ほんと言ってくれるねアンタも」
「いいからさっさと勉強しろィ、とにかく受かればいいんでィ、受かれば、な」
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