「ねえ、くすぐったい」

別に大した悪びれもなく。素直に感想を述べただけだ。
だけどよくよく考えてみればそれもそう。プライドばかりが無駄に高いこの男がキレないはずもないのだった。

「てめーは何で濡れねえんだ、いつもいつも!」

どうしよう。
怒っているんだか半泣きなんだかよく分からない表情で怒鳴るこの男のみっともなさときたらない。そんなの何故と言われたってあたしが知りたい。

「だって気持ちよくないんだもん。下手くそなんだよ、てめー」
「何ィ!?」
「気持ちいいっつか、かゆいに近い」

鼻くそをほじりながらしれっとした態度で吐き捨ててやったら寿は心外そうに体を震わせた。

「俺は悪くねえ!」
「別にあんたが悪いなんて言ってないでしょ。別にいいんだよ、あたしは。そのままぶち込んで痛くされても」
「いーや、いい加減むかつくんだよ、それは!いつもいつも早く終わらせてほしそーな顔しやがって」

それは仕方ない、正直が売りなあたしだから。悪いがそんな親切な演技力なんざ身についてないのだ。
それでも苛立たしげに貧乏ゆすりをする寿を見かねて、さすがに不憫に思えたのであたしなりに精一杯の提案をしてみた。

「……んじゃ、ちょっとためしになめてみてよ」
「嫌だ、汚ねー」
「心外だわ」
「てめーが悪い!」
「悪いとか悪くないとかそんな問題じゃないでしょ」

ちくしょう!と叫んで頭をかきむしる寿の荒れようときたらない。
言われなくとも、悪いのは絶対に寿じゃない。感じないあたしが悪いのよ。だけど例えそう言ってみたところで納得しやしないのだ。きっと余計に意地になるに違いない。(めんどくせー)

「あたしローション買って来ようか」
「いーや、それは何か負けな気がする」
「セックスに勝ちとか負けとかあんの」
「ある。俺の中では」

じゃあ例えばどうなったら勝ちなのだと聞きたかったが、これ以上自分の彼氏の馬鹿さ加減が露見するのも情けなく思えて黙っておいた。
とりあえず下半身が寒いのでそばに脱いであったパンツを履く。寿はそれを不機嫌そうに睨んでいる。

「……せめて自分の好きな男のために色っぽい声のひとつでも出してやろーとか思わんのか、お前は」
「あん、ああん、寿ぃ、あんあん」
「……いや、やっぱむかつくからやめろ」

やめろだって、何様だろうかこの男は。何かひとつでも自分の気に入らないことがあろうものなら、すぐに機嫌を損ねてしまう。俺様というか子どもというか。彼女してやってるあたしの身にもなってほしい。

それでもあたしは、知っているのだ。愛撫するあんたの指先が、いつも微妙に震えていること。
だからやっぱり悪いのは、それに濡れないあたしなの。

「……しょうがないなあ」

小さくため息を吐いて、立ち上がって衣服を身に纏う。そうして財布を片手に玄関へ向かうあたしを、寿はスネた表情で見上げた。

「……どこ行くんだよ」

口を尖らせ、ひょこひょこと後ろをついてくるこの男のことを、心の底から愛しいと思う。

「わがままな彼氏くんのために、ビデオ屋でアダルトビデオでも借りて来ようかと思って。とびきり刺激が強そうなやつ」

玄関に立って、一番近い場所にあった靴を履く。黙って自分も靴を履き始めた寿に、あたしは思わず小さく噴き出した。

「全く、これだからインポ女は……」
「インポじゃなくて不感症だからね」
「どっちも同じだろ」
「いや全然違うからね。それよりレジ立つの恥ずかしいから寿が会計すませてね」
「は!?何で俺が!」
「え?そのためについて来てくれようとしてるんじゃないの?」
「夜道を女一人で歩かせるわけにはいかねえからな。そんだけだ」
「全く気が利くのか利かないのか……この差し歯単細胞は」
「それ以上言ったらてめーも差し歯にしてやるからな」

いいじゃない。そんな差し歯でバカで俺様で単細胞でバカでプライド高くて高校生活半分以上無駄に過ごした人生負け組でバカなあんたを、それでもあたしは愛してんだから。

言いかけたけど、差し歯にはなりたくないので言葉を飲んで彼の手を握った。


正しい愛の育み方
(「sexcite!」再録)

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