永久不変って一体何のことを言うんだろう。


「ねえ牛乳飲んだのあんたでしょ。今日はシチューの気分だったのにどうしてくれる」
「あーまじで?カレーにしとけよ、確かカレー粉あっただろ」

だからシチューの気分だったんだってば。仕方ないから煮詰めた野菜を放置して冷凍してあったグラタンをチンした。白つながりということでほんの少し妥協する。腹減ったー俺にも何かくれだなんて半ば無理矢理武に何割か食べられてしまったせいで腹八分目。あーだめだ。やっぱりシチューの気分だった。

「シャワー借りるな」
「はいはいどうぞ」
「……一緒に入る?」
「溺れ死にたいの?」

ははは冗談だって。笑った武はいつのまにかスーツが似合う男になっていた。


波乱の一週間だった。まず月曜日には両親が突然離婚するだなんて連絡を寄越してきて、水曜日には飼っていたフェレットが突然死した。木曜日には買ったばかりのファンデを割ってしまって、金曜日にはこの男が血まみれになってウチを訪ねてきて。

(この一週間で少なくとも一年分のハプニングに遭遇した気がする)

「いや、でも一年は言いすぎかな」
「独り言?」

ええ独り言ですとも。しかも無意識でしたとも。シャワーから出てきた武の右腕の包帯はびしょぬれだった。ああさっきの一緒に入る?の時点で私はもっと気を使ってやるべきだったのね。一緒に入ってこの手で頭を洗ってやるべきだったのね。ごめんなさいねえ、気がつかなくて。せめてもの償いにとびしょぬれになった包帯を取り替えてやった。武はサンキュ、と笑っただけだった。

(いつからだったっけなあ、こいつがこんなに怪我するようになったのって)

それもずいぶん昔な気がする。ただ平凡に野球してるだけだった少年はいったいどこへ行ったのやら。

そういえば、私がうんと小さい頃は両親も普通に仲が良かった気がする。どうしていつのまに仲違いしたんだろう。どうして今まで別れなかったんだろう。どうして今更、別れることにしたんだろう。
暗闇の中、空っぽになったケージの中をぼんやりと眺めていると後ろから武の手が私の髪の毛を引っ張った。こんなとき布団が一枚しかないことを心底恨む。わるいけどそんな気分じゃないんだよ。

「ねむい、うざい」
「えー」

背後で武の指が私の髪を弄っているのが気配で分かる。混ぜるように撫でてみたり宙にぱらぱらと撒いてみたり。うざい、とふたたび言うとその体温が近付いてきた。

「分かった、じゃあ後ろからぎゅってするだけだから」

な?と耳元で優しい声。返事をするより早くその力強い腕が回されてくるもんだから体の力が抜けてしまう。太くたくましくなった腕。だけど変わらない息遣い。例えばこの腕が解けたりなんてする未来が来るのだろうか。ふりほどくのはどっちだろう。それが私でなければいい。

「武ー……」
「んー?」
「んー……いや、やっぱ、何でもない」

変わらないでいて、なんてもう手遅れ。夜の闇に秒針の音が響き渡る。私だって変わり続ける。あんたも変わり続けるのだろう。その手に握るバットが刀になったのなら、いつかはそれが折れる日も来るのだろう。

(あー……新しいファンデ買いに行かなきゃ)

それでもきっともがけるだけもがくのだけど。


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