やわらかな昼のひかりがぐらりと傾き、ぐる、ぐると回転をし始めた。急に立っていられなくなってしまった。眩暈。今にも、床に頭を打ち付けそうだ。


聞こえる笑い声が、とても遠くにある気がした。
床に倒れそうになり、足を踏ん張らせた。ベッドに倒れよう…と体は真っ白な洗濯したばかりであろうシーツの上に落ちた。

勢いが良すぎ、徹ちゃんのベッドでぼおんと音を出して体がはねる。そしてまた力無く落ちた。反動で吐きそう。なんだかとても気持ちが悪い。


貧血というやつだろうか。徹ちゃん…、と呼びたいが、出来なかった。ちょっとばかり大声を出せばこの家の、玄関で話し込んでいる徹ちゃんまでは届くはずだ。ちなみに話し相手は、看護婦の律子さんだ。三十分くらい前から話してる。玄関でどんだけ話してるんだよ。


徹ちゃんは看護婦さんが好きだ。だから邪魔したくない。馬鹿なプライドのせいで助けも呼べない。


「……徹ちゃんの馬鹿。」


うわ、一人で呟いたらマジで寂しくなってきた。
三十分もほったらかされて本当はすげえ寂しいのにさ、恋人でもないしまして男なんだからそんな事言えるわけねえ。


シーツにでかいシワが出来たかもしれないと、思っていたが頭が掻き回されてそれはどこか行ってしまった。
おかしい、見えていたはずの天井が何も見えない。どう考えても昼間にしてはら暗すぎるそれでも回りつづけちかちかと小さく星が光っている。

「う、たも…保っ…ちゃ。」

精一杯に声を押し出す。とにかく誰かに来てほしく、弟の名前を呼ぶ。走ってくる。これが俺らしくないと馬鹿にするなよ。

「どーした…おい大丈夫か!?真っ青だよ!大丈夫?どうしよう…!」


どうしよう、とうろうろしながらうろたえる保は、呼んだ俺が言うのも何だが、ちょっと慌てすぎだと思った。


「あ!そういえばいま看護婦さんが…!」
「あ……看護婦さんは…。看護婦さんは…いいんだ。いいんだ。絶対呼ぶなよ…。あと家には帰りたくない。その…水が欲しい。それだけだ。呼び出して悪かった…。」
「あ…み、水…!わかった!」

保は疑わず水を取りに行ってくれた。…………。
そして意識は薄暗に消えてしまった。



目覚めたのは、日暮れどきだった。部屋は夕日を連れて来たみたいに橙。まだ頭がぼんやりするな…。そうか…。
やっぱりあれは貧血だったんだ。まだすっきりしない気持ち悪さが残る中、倒れた時ほどベッドが広くない事に気づいた。身動きがうまく出来なかった。


あんた…馬鹿だ。
ゆっくりと顔を横に向ければ、大きな背中があった。布団はかけておらず、いつも通りのTシャツにパンツといった姿で、気遣うように端で寝ている。
部屋で静かに規則的な息が聞こえていた。

何故同じベッドで寝る理由があるのか。多分、徹ちゃんは看病の仕方を知らないんだろうな、と皮肉っていたが嬉しくて。
普段着だったはずの自分の布団の下の今の格好は寝間着と似ている。Tシャツ、パンツ。さっきと同じでどこか看病らしくないが、優しさを感じた。


ほったらかしにされて寂しくて仕方なかったのに、目頭が熱くなって、滲む視界。こういう優しさに俺は弱い。


涙腺ゆるすぎるだろ。あー、泣きたいけどこんなところでめそめそ泣いたら恥ずかしいので、目をぎゅうっと閉じた。


このまま言わないでこの関係のままでいられるなんて、甘い考えだった。徹ちゃんが話す恋の話にも、こうやって一緒にいる事ももう俺には限界で。

目の前の背中が好きでたまらないのに。いつか言ってしまうなら今言ってしまった方が楽だ、多分。どうせ寝てるんだし。
羞恥も我慢も捨てて、言葉を投げ掛けた。


「徹ちゃん…。」
「…………。」
「…好き。」
「…………うん。…知ってた。」


起きてたのかよ…。くそ、最悪じゃねぇか。格好悪い。


どうしたらいいのか分からなくてしばらく黙っていたが、それ以上何も言わない徹ちゃんに俺のゆるい涙腺から涙が落ちてくる。

まぁ、ばれてるだろうとは思ってたけど(毎日一緒にいるのだから)。


やっぱり、フラれた。キツイ。



ぐずぐずしてきた鼻を啜って、ベッドから起き上がった。もうここにいる必要はない。看病してもらっといて図々しいけど、終わったんだ。恋も、今まで大事にしてきた友情も、何もかも。

綺麗にたたまれた服を床から拾いあげて着て、最後に一度ごめん、と言って部屋を出て帰った。






好きなんです

(フラれたけど。)




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間があいてしまったので初心にもどりました。昔はこんな書き方でした。あれ、あんまりかわらないような…。








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