夏野が学校に来なくなった。
それは昼休みに起きた事件の次の日からで。


周りの視線の痛い事痛い事。廊下を歩くと、夏野の教室の前を通ると、こそこそお喋り。夏野の事を追いかけ回していた夏野ファンの女子達からはもう殺されちゃうんじゃないの、ってくらいキツイ視線を頂いた。


紛れも無く俺のせい。
最初は何日かすれば来るだろうと思っていたが来ない。
夏野を尊敬している(らしい)昭という一年生が夏野の様子が変だと廊下で騒いでいたので聞いていた。

「電話に出ないンだよっ!おかしいっ変だよっ!!」



そうですか。そーですか…。


なぁ、夏野よ。お前ってそんなだったっけ。繊細で他人の言葉ひとつでそんなふうにふさぎ込んじまう奴だったっけ。たかが恋ひとつで阿呆らしいって言いそうな奴だよな?

いざ自分がその立場になったら、はいもう駄目です、そうなっちゃうなんてさぁ、ずるいな。




その後の気分は最悪で授業を受ける気にもなれなくて、サボった。

適当に知らない住宅街とか河原とかうろついて帰った。
途中で買物帰りのおばちゃんや、散歩してるおじいさんとかに怪訝な顔してみられたけどイライラしてるんでガンつけてさ(全然知らない人だったし)。



帰ったら帰ったで夕飯の後、葵と保が険しい顔して人の部屋にずかずか入って来た。
イライラして不機嫌マックスの俺は追い返す、と決めて起き上がったらいきなり葵から腹にきつい一発を喰らった。チクショー、ふざけんな!グーは痛いだろ!?マジでやめてそういうの。
どうやらベッドでごろごろしていたのが葵の怒りを増加させたらしい。


「今日、夏野のマンションまで行ってきた。」
「え……。」



えー……。

電話に出ないし家に行っても出てこない返事も無いんだ、と言われた。


マジで重症なのか。



「お兄ちゃん喧嘩したんでしょ?」
「まぁ……喧嘩っていうか…。」
「じゃあ謝りに行かないと駄目じゃん!夏野が兄ちゃんの事、いーっちばん信頼してるって分かってるだろ?ひとりで苦しんでるんだよ?」
「っ、それはっ……。」


そんなン分かってる。親が嫌いな夏野にとって一番信頼する位置に居るのは親友の俺だ。

いや、『一番大切な人』、だった。今はもうアイツの、笑ってばっかで馬鹿な俺はいない。


今いるのは人の気持ちも理解できなかったただの馬鹿。それが今更になって夏野の気持ちを理解して。目頭が熱くなって俯いた。
一番大切な人を失ったらどんな気持ちだ?一番大切な人に嘘をつかれたらどんな気持ちだ?その気持ちが分かるか?悪いけど分かんないよ。まだそんな場面に遭った事ないから。でも気持ちを汲む事は出来る。


目の前の二人は俺の非を責めてきつく睨む。
行くのが怖い。
どんな目をしている?
………。



「謝りたい……。」
「だから行きなさいって!」


謝れば解決する事じゃない。でも謝らないといけない事は確かだ。夏野への気持ちに嘘をついた時から抱いてるもやもやした感情、罪悪感。ちぎれてしまうのではと思うほどの後悔。


気持ちが無いのに酷い事を言ってしまった事を謝って、ちゃんと、気持ちにはこたえられないと伝えなければ。



…だから俺は今、さっむい夜中にお前の部屋の前に突っ立ってチャイムを押そうとしている。ジャケット着てるのに風が腋の下スースー通り抜けてるってどういう事だ。
夏野の部屋に来てチャイム鳴らすのに、こんなに指が震えるのは初めてだ。ちなみに寒さの所為じゃない。

お前に出来る限りの事をしたい。謝る事、気持ちを伝える事、泣いて抱き着いてきたら背中さすって、落ち着くまで一緒にいてやる。


その後は、俺にはどうする事も出来ない。
冷たいかもしれないが、立ち直れるか、しばらく篭るかは夏野自身の問題だ。

でも、ずっと大切な友達だって事はちゃんと伝えておこう。


深呼吸して……。






また傷つけてしまうかもしれないけれど、大切だから会いに行く
(本当は誰よりも繊細なお前に)



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親が遠出する事が多いので一緒に住んでるものの実質マンション一人暮らし中夏野っていう…
徹ちゃんに絶対一番というひとはまだだれだかわかってない誰が一番なんて決めないとかいろいろ今更長い設定でした。







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