※中世っぽい死ねた


あのひとにさようならを言いました。さいごまで美しく、俺を信じ、ちいさな口で、虫の羽音よりも小さく、身体の中に響く声で、本音を聞きました。散るときの美しいこと。ぴんくだったくちびるが、真白のくちびる。静かに目を閉じ、髪色と同じ、長い睫毛がかげをつくり、まるで彫刻のようでした。
俺は涙がぽろぽろこぼれ、それは彼が冷えた死体となったからなのか、死ぬ様が美しく感動したからかは、分かりません。
彼に手をかけたのは俺です。愛していたのに。これは死にあたいする罪です。お許しください神様。俺は人ではありません。むかしはひとでした。息が絶えると下劣な生き物にかわってしまいました。食っても食っても卑しく腹をすかせ、どうしようもないのです。そういう生き物になってしまったのです。お許しください。すべては兼正が悪いのです。兼正はこの村を暗黒街にし、兼正が俺をこんなに卑しい生き物にしたのです。本当は彼を殺めたくはなかったのです。

「それは本当かい?」

本当ですとも。俺は彼を愛していたのですから!

「うわあ、やあやあ、落ち着いて椅子に座って。ほらディナーをどうぞ。味はわからないでしょうが、血が多い肉だから美味いですよ。
…さて、話にもどりますが、それは嘘でしょう。きみの言う愛は本当の愛ではない。でなければ殺めはしないでしょう。自分を強くもち、飢えを知らないふりをし、彼が生き幸せに過ごす事を祈り見守り続けるか、祈り死んでいくか、どちらかではないのかね?」

それは違います。
彼は俺が殺さなくても、ほかの下衆やろうどもに殺されていたはずです。それは辛抱たまらない、おそろしいことです。どんな宝石よりも上品で、焼けた浅黒い肌に下衆が牙を深く入れ込めば、彼の身体を汚染し、起き上がるものも起き上がれないでしょう。
下衆どもに彼を渡すものですか。渡しません!渡すものですか!彼が死ぬ運命に決定してるなら、俺が殺した方が満足いきます。
死んでしまっても、もう二度と会うことが出来なくても…彼も愛する俺の手にかけられるなら、死の絶頂を味わったでしょう。
暗黒の森から手を伸ばし、触れた首は人間の体温でした。柔らかい首に噛み付くと熱い血があふれ流れました。
…それにしても、血をたっぷり含んだ肉に、飲み物が血、とても豪勢な夕食ですね。ああ、晩餐と言ったほうがいいですね。
…、?、この血が彼の血とくらべてうまいか…と?…彼に決まっています。すみません。愛した人の血、格別で言い表せません。ええ、愛しています、愛しています、愛しています、しかし、もういない。ひとり泣きじゃくる毎日です。

「うんうん、実に可哀相だよ。悲劇だ。しかも彼は火葬らしいね。起き上がる事はないね。ふむ、きみはだれがほんとうに悪党かしっているかい?わたしはきみに殺してこいと言った、仲間の何人かは彼を殺そうとした、きみは愛で彼を殺した。さて、だれが…。
しかし彼が火葬されず死から生に帰ってきたなら…。おや、大丈夫かい?グラスを倒したのか、手が血まみれだ。彼は…生きているよ。…さあ!畜生ども!あれをつれてこい!」

!あれは!どういうことだ!?彼がでかい鳥かごに入っている。監禁か?ああ、唇が色づいて…俺と同じように起き上がったのか。火葬されなかったのか。よかった。…殺してごめん。ほんとうにごめん。そんな顔しないでくれよ…泣いてしまいそうだ。
服がこんなにぼろになって。かわいそう。大丈夫だった?ああ、でも痩せこけていなくてよかった。酷いめにあったよね?ごめんね。この冷たい籠のなかにいたのか。鉄くさい。汗くさい。精液くさい。風呂にはいってないのか。かわいそうだ。傷だらけで…あちこちよごれて…どうした、声が出せないのか?

「あ、彼には歌を歌わせているんだ。最近喉を潰したらしくてね。まあ強制すればできますよ。や、彼は一日に一度だけ籠の外にでて、みんなが飽きるまで歌うんだ。お触りもやらせててね。尻に突っ込む以外はみんななんでもやっていい。男も女もまざって彼を愛撫する。皆いつも注目しているよ。
最初は毎日風呂に入れてたんだが、一回風呂にいれずに汚れたままで次の日外に出したら、彼を見たみんなが興奮して。風呂に入ってないこっちのがいいんだって、驚きましたよ。まいにち、まいにち、液体まみれで身体が汚れても、目はまるで宝石みたいにきらきらしている。たとえそこが深く、底知れぬ暗雲の黒い海だとしても、表面だけはきらきらでね、素晴らしい。
ん、何を言っている?なぜ籠に、?それは彼があんまりにも反抗的な態度だからああしたんだよ。」

なんてことだ!憤怒!身体がふるえる!ありえない!彼は人間だぞ。これはなんの罰だ。彼を放せ!金なのか!なら彼を買おう!人間だって百はつれてこよう!この籠いっぱいにつめてもってこようじゃないか!これだけは譲れない!彼は俺の大切な大切な…大切なひとだ!
くそ、食事どうもありがとう!おい、そこの。籠を俺の住み処に運んでくれ。鍵をくれ。嫌と言うな。言わないでくれ。

「おやおや、泣かないでくださいよ。はあ、また泣いて…困りますそんなに泣かれては。ここに軟弱は必要ないのですよ?あなたを殺さなければならない。
いいですか、彼は我々にとって娯楽の存在だ。彼は廃れた我々の感情を蘇らせてくれるのです。楽しみを与えてくれるのです。その彼を失えば、楽しみは消え去り、皆、阿呆になり、狂うでしょう。そうなっては大変だ。ぼろを纏い、汚く、醜い、乞食でも必要なのです。」

ばかにするな!彼を乞食だと言うな!お前にさえ捕まらなければ彼は、自由で、風呂に入り、可愛らしい、カナリアの美しい男です!どんな金よりも美しい、汚れのない心………。うっ、くそっ…なぜ、神はこのような試練を?これは俺が彼を殺した罪ですか?ふたりをなぜ裂こうとするのですか……なぜ悲劇の恋人にするのですか…見てください、彼が大罪を犯した男に見えますか、到底みえません。実際に彼は罪など犯していません。
神よ、あなたはいないのですか。もし神のあなたがいるのなら、どうかわたしたちふたりをすくってください!

「あ、ああ、もう…いいよ。徹、ちゃん。これはあんたのためにとっておいた、声だ。よくきいてくれよ。はあ、まったく、神じゃなくて自分を信じろよ。
俺はたぶん、もう、一生ここからでられない。力がなくて…。じめじめとして、陰気臭い鉄の箱庭は飽きた。頼みが…ある。ここから、出してほしい。もうたくさんだ。
たのむ、一緒に…死んでくれ。たのむ、徹ちゃん。死んで自由になろう。そして一緒になろう。死んで魂をここからだすんだ…。徹ちゃんも、あの野郎からにげだすんだ。ここに隠しておいた杭がちょうどふたつある。俺はあんたを殺す。そんな驚くなよばかだなぁ…。ああ、まよわない。だってあんたはおれを殺したんだから、おれにもできるし、おあいこだ。あんたはおれを殺してくれ。
この汚いみじめな手をとってくれた、あんたにしてほしい。ほんとうにあいしていてくれたんだなあ。うれしい。徹ちゃん、罪を感じなくていい。おれがお願いしてるんだぞ?死ぬのはおれの願いだ。こわくない。」

ああ、なんてことだ、どうしてこんなことに…。
カナリアが俺と一緒に死ぬと。

「徹ちゃん、ころしてくれ。杭なんてこわくないさ。ほら。だいじょうぶ、だいじょうぶ、愛しているから…。」

だいじょうぶ、だいじょうぶ、だいじょうぶ…愛しているから、愛してるから…ずっと一緒、愛しているから……なあ、夏野、おまえ死んだらなにもわからないっていってたじゃないか…一緒になれるかわからないんだぞ。ひどい、夏野、おまえはひどいやつだ。いや…いまは違う考えなのかな。一回死んだのに生き返ったんだからなぁ。
すきだ、すきだ、すきだ。ずっと一緒だからな。次は、幸せ。次、生きるときは、幸せ。ふたり幸せが…いい………約束をやぶるなよ。血がながれるのがわかる。血でふくがべったりしてる…おまえのなみだは、とてもあたたかいね。ふくについた血も全部あらい流してくれる。きれいななみだだ…やっぱりおまえはこころがきれいなんだな。愛しているよ、夏野。








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