あいえんきえん | ナノ

地獄大一番

「えっと次にいく場所は…」

バタバタと足早に次の視察場所へ向かいながら今後の予定を頭の中で整理していた。

なんだか今日は妙に忙しい。
閻魔殿にもどっと仕事が入りてんてこ舞い状態だ。
いつもは休みがちな閻魔大王も、あまりの用件の多さにひぃひぃと対処にあたっていた。

今は鬼灯様も視察に回っているから閻魔殿の人手がたりてないんだろうなぁ…早く終わらせて手伝わないと。

「……ん?」

次の視察場所へ向かう途中、ザワザワと騒ぎが起きている一角へ目がいった。

どうにも気になる…






「ここで一番強いやつ連れてこいって言ってんだよ!」

怒鳴り声というか、わめき声というか、とにかく人目を憚らず叫んでいる人と犬、猿、雉?

文献でもみたことあるような容姿に、そのお供…。

英雄…桃太郎…?

「名前さん、どうしましょう…」

「どうしましょうって……」

近くにいたここの獄卒と話しながらチラッと桃太郎と思われる人の方を向くとギロッと睨まれて思わずたじろぐ。

「なんだぁ、お前が一番強いのか?」

「い、えいえ!!滅相もございませんっ」

一番強い奴ってたぶん鬼灯様にあたるだろう。というか鬼灯様は強いという次元では収まってない、むしろ一番恐ろしいというかなんというか…。

「まぁ、どっちにしろ女に手をあげる気はねえけどな」

「え、」

なんとなく、亡者の暴動の様な是が非でもというような感じではないような気がした。たぶん悪い人ではない。

でも鬼灯様にこのような態度で向かっていったら…どうなることか…。

なんとか対処しないと。

「あの、ほんと悪いことは言いません。やめといた方が良いですよ…」

あの方は最終的に実力行使にでますよ、と伝えるとビクッと肩を震わせた桃太郎とそのお供。

「あなたが呼び寄せているのは、鬼の中の鬼。しかもドS…」

ガンッ

言葉を続けようとした瞬間に、背後で地面に何かを叩きつけた様な震動ととんでもない視線を感じた。

「ほぉ〜、誰の話をしているんですか、名前さん」

ギギギと効果音がつきそうな動きで振りかえると、金棒を地面に刺して人をい殺せそうな目付きをした鬼神…鬼灯様がいらっしゃいました。

「あ、えぇっと…」

「貴女には後で詳しくお話をお伺いしましょう」

有無を言わせぬ威圧に頷くしかなかった、怖い。

私から視線を外して桃太郎へ意識を向けた隙に二、三歩後ろへ下がった。

「名前さん、大丈夫ですか…」

心配したように唐瓜くんが話しかけてくれた。

その後に茄子くんも来てくれて、鬼灯様にあんなこと言えるなんて凄いなぁと言われたけど、本人に言うつもりは無かったのよね、まさか背後にいるだなんて思わなかったし…。

「はぁ…本人はドSって自覚ないのにドSって言われると怒るのよね…」

「ああゆう人が一番怖いっすよね…」

「鬼灯様はドSって言われると怒るの?」

パキッ ガンッ

3人で話していて茄子くんが私に質問した瞬間、茄子くんのすぐ横を折れた剣の先が飛んできて、後ろの岩に突き刺さり、ビイイィンといまだに振動で揺れている。

驚いて3人で身を寄せあった。

「こここここぇぇ……」

唐瓜くんの言葉にガタガタと震えながら頷いて状況をみると、どうやら桃太郎が剣を取りだし鬼灯様に挑んだけれど、金棒を一振りされ剣が折れたようだ。

「びっくりした〜。鬼灯様すげぇ」

「お前、胆座ってんなぁ…」

一歩間違えば自分に刺さっていたことも差し置いて純粋に感嘆してる茄子くんに唐瓜くんがつっこむ。
いや、ほんとすごい。

「名前さん」

「はいっ」

ことが落ち着いたようで、鬼灯様のお呼びがかかる。
さっきのでまだドキドキしてるところに更に拍車がかかる。

「この方たちの不喜所地獄への就職と桃太郎さんの就職の手続きの手伝いをお願いします」

「わかりました」

閻魔殿へ向かう鬼灯様の元へ向かうと、その後お話がありますから早く終わらせますよ、という悪魔の囁きのような言葉が聞こえて一瞬足を止めた。

忘れてなかったのか…。

帰ったらこれは大変だなと思って肩を下ろしていると、鬼灯様がこちらを見ていたので視線をあげた。

「今回は良かったものの、もしタチの悪い亡者だったらどうしたんです。貴女、怪我したかもしれないんですよ…」

「すいません……悪い人ではないと思ったので」

「……次からは私にちゃんと頼ってください」

その為の上司です、という鬼灯様はとても頼もしかった。






「(もし、貴女が傷つけられる様な事があったら、私はその相手をどうするかわかったもんじゃありませんよ……)」

今回、その様な事にならなくて良かったと、鬼灯は一人安心していた。





20140313

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