あいえんきえん | ナノ

あの時と今

私が刑場を余りみたことがないということで、鬼灯様は8つの各部署を案内してくれるらしい。

大まかな事は知っているけれど、実際に行くのは初めての場所が多かった。

「名前さんのお母様は衆合地獄に勤めていらっしゃいましたよね」

鬼灯様の言葉に頷いてからお母さんの事を思い返す。

衆合地獄は邪淫罪の地獄。衆合地獄の女性は亡者を惹き付ける役目などもある。
今はもう引退したけれど、お母さんは衆合地獄ではベテランだったらしい。

私が言うのもあれだけど、結構な美人だと思う。もっとその要素を私も受け継ぎたかったものだとしみじみと思う。

「名前さんのお母様には恐れ入りました。あの方の仕事をしている姿は多くの人が魅了されたものです」

鬼灯様がここまでいうのだから、ほんとにすごかったんだろうなぁ…。

引退してからでもそれなりの身なりをしているけれど、当時の着飾っていた時の姿をみて娘の私でさえ見惚れたものだ。

「今衆合地獄に勤めている獄卒のなかにも、彼女に憧れて入ったかたもいますよ」

「そうなんですか?私もお母さんの姿に憧れていたんですけど…」

美形じゃないし、あんな風に誘惑できるような色気もないしで諦めたんだっけ…。

「名前さんは十分衆合地獄に勤めれると思いますけど、」

鬼灯様の言葉にえ、と視線をあげたけれど、鬼灯様がどのような意図でその様な事をいったのかはわからなかった。

そこではたと思い出したことを尋ねた。

「そういえば、まだ私の勤め先を聞いていないのですが…」

そうでしたね、と鬼灯様は呟きながら閻魔殿とかかれている門の前で止まり私の方へ振り返った。

「名前さんには、私の補佐をしていただきます」

きっぱりと言い切られた私は面食らってぽかんとしてしまった。

「最近は亡者の数も増え、仕事もふえたものですから私一人では賄えない場合もありそうですので」

八寒での獄卒の時よりも忙しくなると思うので覚悟してください、とさらっと言われた時に、私はほんとの鬼をみたような気がした…。









「良いじゃないですか。大出世ですよ」

「出世したからいいって訳じゃないんですよ。」

鬼灯様に頼まれた資料を運びながら私はつっこみをいれた。

鬼灯様の補佐になってからどれぐらいたったたか、という話から派生して私がここに来たときの話なったのだ。

「ここに来たときの名前ちゃんの全てを諦めきったような表情をみたときは、鬼灯くんが何かしたんじゃないかって心配したよ」

閻魔様がはははと笑うのに対して、鬼灯様は何もしてませんよ冷静に返答していた。

「ちまたで噂の補佐官様の補佐になれだなんて、いきなり言われたんですよ?何もしてないとも言い切れませんよ…」

「そんな噂をされるような者じゃありませんよ。官吏なんて地味なもんです」

「いや、そういうのではなくてですね…」

多くのひとに恐れられているのを知らないのか…と言いたいところだけれど、あとが怖いやめとこう。

「仕事の鬼」

「鬼です」

鬼灯様がお馴染みの返答をしてから、近頃は反抗的ですね、と呟いたのが聞こえたが、そりゃそうもなりますよとつっこみたくなる。

「あの頃は可愛かったですよ、従順で」

「可愛くなくていいですー」

じゃあ視察に行ってきますと部屋を飛び出した。






「私的には、反抗的な方がいじりがいがあって面白いですがね」

名前が出ていった方を眺めながら鬼灯がぼそりと呟いた。
その目は内容とは裏腹にどことなく優しかった。

「…鬼灯くん、本当は八寒とか関係なく名前ちゃんを補佐にするつもりで人材要請したんでしょ」

閻魔大王の言葉に、鬼灯も当時の事を思い出す。

「八寒関連の事で何かと効率が良くなる事や私の補佐をしてくれる人を探していたというのも事実でしたが、そうですね…これは建前だったでしょう」

本人は知らないようだったが、実際は名指しで人材要請書をだしていたのだ。
もちろん八大の知識がそれなりにあり、事務的な仕事もできる、という事を踏まえての事だが。

実際名前がきてからは鬼灯の仕事もはかどり、負担も軽減していた。

「あのとき、ほんとは初めましてではなかったんですよ…名前さん」

名前が先程持ってきた資料をぼんやりと眺めながら呟いた言葉は、本人には届くことなく消えていく。




20140310


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