僕の兄さんは、とても料理が上手である。
兄さんの手にかかれば、余った食材だって美味しく食べれるのだ。兄さんは料理の腕だけはプロ顔負けだと僕は思う。
それ故に僕は料理に対して一切口出しない。

一度だけ包丁を握った事があるのだが、危うく自分の指を切りそうになり、最終的には兄さんから座ってていいから、な?と子供をあやすように言われた。
それ以来、皿を運んだり料理を並べるくらいしか手伝わないようになった。

テストの丸つけも一段落して僕が台所に着くと、芳ばしい香りが鼻孔を擽る。
兄さんは鼻歌を口ずさみながら海老を溶いた小麦粉に浸していた。ダイニングテーブルの上には揚げたての天ぷらが皿に、こんもりと山のように盛ってある。

ぐぅ、と腹の虫が小さく鳴く。
一つくらいつまみ食いしても気付かれない量だ。
僕の足元で、にゃあ、とクロが高く鳴いた。
僕には悪魔の声が聞こえないが、多分「バレない、バレない」と言ったのだろう(あくまで僕の解釈にすぎないが)
クロが僕の背中を押してくれたので躊躇う事なく天ぷらを摘まんだ。

兄さんに見つからぬようにテーブルの影に隠れながら、天ぷらを口に放り込んだ。
揚げたてなので衣は、さくさくと音を奏でた。
じゅわぁ、と口の中に広がる旨味に僕は笑みを溢した。

「癖になっちゃいそうだね」

クロが羨ましげに見つめてくるので僕は再び、兄さんにバレないように天ぷらを奪いに行くのであった。


つまみぐい虫
(ばればれ、だっつの!)
title ごめんねママ
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