※幼少志摩家



「廉造くんは柔造くんに、よぉ似てはるねぇ」

まただ。
また柔兄と似てると言われた。
俺の家は皆タレ目やし似てるのは当然の事だ。
でもいつになったら柔兄と比べられずに済むのだろうか。
いつか俺を認めてもらえる日がくるのだろうか。
お父は柔兄ばかり期待して俺なんかオマケにすぎない。

「…何で柔兄ばっかりなんや」

幼いながらも柔兄を疎ましく思っていた。
柔兄に認められれば周りからの見る目も変わるはずだ、と思った俺は、ある日近所の川に柔兄や金兄と一緒に遊びに行った。
流れはさほど早くはないが、地面から5メートルほど下に川が流れている。
金兄は我先に川に飛び込む。
ばしゃああん、と派手な音を立てて水面から顔を出した。

「めっちゃ気持ちええで!」

まるで水を得た魚のように金兄は元気に泳いでいく。
俺もサンダルを脱ぎ、飛び込もうとすると柔兄に腕を掴まれた。

「…何するん?柔兄」
「お前は行ったら、アカン」
「何でやの?」

まだ子供さかいに止めとき、等という決まり文句は聞きたくなかった。
この高さだったら自分も飛び込める。いちいち柔兄に指図されなくても危なくなんかない。
なによりも今の柔兄の顔が、お父にそっくりで尚更、言うことを聞きたくなかった。
俺は柔兄の腕を振り払い川に飛び込んだ。

ばしゃん、と白い泡で前が見えなくて俺は、ゴツゴツした大きい岩に額をぶつけた。
直ぐにでも水面に上がりたかったが、いかんせん足が吊って泳げないのだ。
誰にも気付かれないのか、こんな事なら柔兄の言う通りにしとけばよかったんかな。
徐々に沈んでいく身体。
息が苦しいよ、柔兄――。


「廉造っー!!」


柔兄が俺の腕を掴む。
瞬く間に水面に上がり、ぜえぜえと荒い呼吸をする。
柔兄は俺を抱き上げたまま、額に張りつく前髪を掻きわけ、傷口を見つめた。
自分でもわかるが、きっと血が出ているのだろう。
ズキンズキンと痛む。

「廉造、しっかりしいや!」

柔兄が俺を抱えたまま岸に上がる。自分の服の裾を破き、出血を止めようとしてくれた。
慌てて金兄が駆けつけて、お父呼んでくると、踵を返した。

「大丈夫、ちびっとの辛抱やからな、頑張りぃ」

俺が不安にならないように柔兄は笑ってくれた。
何度も何度も優しく背中を撫でてくれて。
気づくと俺は泣いていた。
柔兄は俺なんかと全然似ていない。顔は似ていても中身は柔兄の方が数百倍、賢くて勇敢で優しくて俺の涙は止まらなかった。
俺は嗚咽交じりで何を言っているかわからないほどに、ごめんなさいと謝っていた。

霞む視界の中、柔兄は「謝らんでええ、廉造かて辛かったもんなぁ」と呟いた。
ああ、柔兄には全てお見通しやったんや。
なんだか自分がバカで恥ずかしくなって俺は背を向けた。


古傷
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -