「遅かったですね」

自室に入った途端、君から責められるような口調で出迎えられた。頬をぷぅ、と膨らませた顔は子供のようで思わず吹き出してしまうった。
すると君はまた機嫌を悪くした。

「…香水の匂いがする」

雑誌からは目を離さない君だが、その声色は明らかに普段と違って低いものであった。
正直な話、鈍感なくせに変な所で勘が鋭いのだ。
緊急召集されてたんですよね?と君が疑いの眼差しを向ける。
当たり前や、俺が君を放って他の女の所に行くなんて事は、天地がひっくり返ってもありえない。

召集された場には祓魔師の女もいた。
きっとその香りが、匂ったのだろう。
俺は基本的に香水はつけない。
無香料、せっけんの香りくらいが丁度いいのだ。
それはさておき、今は君の機嫌を直す事に集中しよう。

「なぁ燐くん。機嫌直してぇな」「俺は怒ってない!」
「嘘や」

君は嘘をつくのが下手な事は俺が一番知っている。
俺が君から雑誌を取り上げると、返せと言わんばかりに飛びかかってきた。
威勢がええこっちゃ。
俺は細っこい腕を掴み上げ、顔を正面に向かせる。

「…燐くん、さっきから俺の目ぇ見てくれへんやん」

「―っ…」

「なぁ、燐」

ぼそ、と耳元で甘く囁いてやると君は頬を真っ赤に染めた。
分かりやすくて、感じやすくて。見ていて、からかっていて飽きる事がない。

「金造さんは…ズルい」

君が俺を見つめる。
その大きな瞳には、うっすらと涙が溜まっていた。
――泣かしてしまった。
馬鹿や俺は。

「俺…いつか金造さんが離れていくんじゃないかって不安で、心配で…」

そないなアホな事があるかいな。俺は周りからも認められるほど、君に依存しているのになぁと内心呟いた。
小さな身体は微かに震えている。俺は壊れものを触るかのように君を抱き締めた。

「俺は燐くんが大好きや、それは例え俺が死んでも変わる事はないんよ」

せやから笑って、俺の目を見て、な?
君の瞳から涙が溢れだす。
どうしたら泣き止んでくれるのかと俺は必死に考えた。
悩みに悩んだ末に俺は君の目尻にちゅ、と軽く口付けを落とす。
君は目をぱちくりと開け、何回か瞬きをした後、漸く事を理解したのか、あっという間に俺から離れていった。

「なななっ…何するんすかっ!」
「君がかいらしかったからや」
「…金造さんには敵わないな…」

君がやっと笑った。
俺はそれだけで幸せや。


祓へ様に提出
素敵な企画へ参加させてもらいありがとうございました!


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