玄関を出た途端、びゅうっと吹いた風。
「さっむ……」
さっきまで入っていた炬燵を思い出して、より寒くなった。
くっそ。
母さん俺を殺す気か。こんな日に買い物頼みやがって。
自転車に乗っているから余計に風が当たる。身を屈めてみてもやっぱり寒いものは寒い。
家から少し遠いショッピングモール。
頼まれたものをさっさと買って帰ろうと思っていると、目の前に炬燵。
布団売り場に炬燵があった。
「あったけ」
人の目なんか気せず、俺は炬燵に入って冷えた体を温めた。
「あ、炬燵はっけん」
数十分間温まっていると、ここ最近で聞き慣れた声が。
「峰岸せんぱいっ」
「あー、桐生、くん」
炬燵に入っている俺を激視する先輩。
店内のくせに無駄に広いから風通しが凄く良いこのショッピングモール。
寒いのか立ち止まっていた先輩が身震いした。
「入ります?」
ポンポンと隣を叩くと素直に頷いた峰岸先輩が炬燵の中へ。
峰岸先輩の手足が冷たい。
「あったかーい」
幸せそうに笑う峰岸先輩を今すぐにでも抱き締めたくなったが、我慢。
「ねえ桐生くん」
ずっと峰岸先輩を見ていた俺に向いた先輩の顔が距離が異常に近い。
「……。」
「……。」
二人とも止まってしまって、無言のまま。顔もまだ近いまま。
あ、ちょっとやばい。
「先輩、俺が温めてあげます」
そう言って峰岸先輩の手をとりそれを両手で包んだ。
「桐生くん、の手、あったかいね」
「先輩の手、冷たいです」
ああ、もう。
炬燵のあったかさとか。
この近い距離とか。
峰岸先輩の可愛いさとか。
包んでいる手とか。
全部が全部好きすぎる。
炬燵を愛した土曜日
(ねえ、峰岸先輩)
(な、なあに?)
(明日デートしませんか)
HP : 赤いお部屋 / れッと
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