ぽと、ぽと。


彼とわたし。二人だけが別の世界にいるかのようにしん、としていて。


掃除時間だというのにホウキで遊んでいる人達の声も、遠くのように感じる。


水道の蛇口から落ちる雫の音だけが、やけに大きく聞こえた。




「……なに」




口を開くのさえも面倒くさそうに不機嫌な表情を隠さない彼。


そんな彼が怖いと思った。




もうあの頃のように、あの大好きだった笑顔をわたしに向けることはないのか。


もうあの頃のように、二人して些細な幸せを夢みながら並んで歩くことはないのか。




「なに、って……」




真っ直ぐにわたしだけを見てくれていた目も今は携帯の画面を見ているだけ。




「なんで電話に出てくれないの?」




声が震えた。


わたしが聞きたい答えは聞けないのだろう。そう思うのに、聞きたいと思う。


僅かな期待があるからかもしれない。




「用はそれだけ?」




やっとわたしを見た彼の目は予想以上に冷たくて。


見ないで。そう言ってしまいそうだったけれど、声さえ出ない。


あっさりと打ち砕かれた期待はわたしの中で粉々になった。




「……。」


「どうでもいい」




黙りを肯定ととった彼はそう言い放つとその場から去って行った。




彼の背中を数秒見つめた後、水道の蛇口を捻ってバケツに水を溜め始めた。


バケツの中の水面に広がる波紋の模様を見つめていると、だんだんぼやけてきて。




めからしずく

それは水の中へ溶けていった





HP : 赤いお部屋 / れッと

God bless you!様 12/01月お題