ひょろひょろしたその体で、こんなにも力強い響きを生み出すことができるのか。
彼の第一印象はそんなだった。
故意的メロドラマ
「おい、ひょろ眼鏡」
「今すぐ全国の眼鏡をかけた細い人に謝ってくれないかな」
「君のあれ、あのバイオリンの大きいばんみたいなあれ、あれ弾いてよ」
「あれじゃなくてチェロね、チェロ」
呆れたように笑い、彼はそのチェロとかいう楽器を抱える。
彼は適当にそこにあった椅子に腰かけたので、私も彼の前に椅子を引きずってきて座った。
「何を弾けば?」
「どうぞご自由に」
「了解」
眼鏡をくいっとあげて、さっきまでの弱々しそうな雰囲気から一転。真剣な目つきの彼には“ひょろい”なんて言葉は似合わない。
低く、力強く、だけれど繊細な。
私は彼の音がすきだ。
音楽のことはわからない。彼の弾くその楽器の名前すらも曖昧だった。今聴いているこの曲だって知るはずもない。
それなのに、好きだ、なんて。
「ふっ」
「……なんすか」
思わず漏れた笑い声に気分を害したのか彼は眉間にシワを寄せて、手を止める。音が無くなった。
「どうやら私は君が好きみたい」
「は?」
「うん、やっぱ好きなんだわ。だから君のそのチェロとやらの音が好きだとか思うんだろうね」
「え」
「そっかそっか、そうなんだ」
一人でうんうんと納得していると、呆れたようにため息を吐かれた。
顔を上げて彼の表情を見やればそれは思っていた通りのカオで。眉を下げて、困ったように笑うカオ。
「僕には彼女がいるんですが」
「知ってるよ…………ひょろ眼鏡のくせにうざいなあ」
「最後のは余計な一言だよね」
幸せな奴は疎まれる世の中なんだよ。と、この世界の現状を詳しく話してあげようとしたのに、無視された。
だから、ごめんなさい少しだけ強がりです。と言えば、また困ったような笑顔を向けられる。
「ねえ、私と付き合って」
「ごめん。僕は彼女が好きだから」
「当たり前でしょ。もしオッケーされてたらぶん殴ってたから」
驚かせてやろうと握り拳を突き出すと異常にビビられて、少しだけへこんだ。
「最後にキスでも、どう?」
「嫌だ」
「じゃあ抱きつくくらい許して」
そう言い終わるかどうかというタイミングで、返事を待たずにチェロごと彼の背中に腕を回す。
(これは私を振った罰だ、ひょろ眼鏡。せいぜい彼女に下手な言い訳をすればいい。)
ああ、私ってば本当。彼の彼女が向こうの渡り廊下から見ていることを知りながらもこんな行動をする辺り、相当性格が悪いらしい。
それもこれも、私が彼のことが好きすぎる為所だとか思ってくれれば幸いだな。
と、思った、いつかの私の失恋の話。
HP : amare / 藍澤れつ
God blessyou!様 02/03月お題