ガタン、ゴトン。
紺色のシートに体重を預けていると、上下に大きく揺られると共に伝わる細かい振動。
大きな箱の中に入り、その箱は地面にある二つの線に沿って進んでいく。当たり前のことなんだけれど、なんだか凄いことのようにも思える。
わたしと彼はこの箱に乗って、どこか遠い、誰も私達のことを知らないような遠い世界へと向かっているのだ。
四角く切り取られた枠の中を右から左へと流れていく景色。それはさっきから変わらずずっと緑ばかりで、正直飽きる。
ふわり、と欠伸を一つ。
「寝たら?」
頬杖をついて窓の外を眺めたままの彼に、よくもまあこんな何にもないただの森や山を飽きずに見続けられるなあ、と視線を向けた。
だけど、違った。が見ているのは景色なんかじゃなく、その先だ。私達の行くその未来〈さき〉を見つめているんだ。
「メグ」
「目黒、だ」
「メグは……後悔、してる?」
まさか。ふっと笑みを溢す。
「小林は?」
「わたし、は、してないよ」
「本当に?」
ぐらりとも揺るがない彼の漆黒の瞳が私の姿をうつしだした。
嘘なんかつかせない、とでも言うように真っ直ぐと私を見据える。
(私は、後悔、しているんだろうか……?)
瞼を閉じて、もう一度自分に問うてみる。
私はやっぱり……
「小林。ここ、座って」
自分の隣に置いていた荷物を足元に退けてそこをポンポン、と叩く。横に座れというメグの要求に従う。
「俺は、」
「うん」
「小林がどういう決断をしようが、どっちにしたってあそこに戻るつもりはないんだ」
「……うん」
メグの意思は固い。一目見ればわかるよ、私は誰とでも駆け落ちなんかするような女じゃあないんだから。
私の意思だって、固いんだから。
「私は、やっぱり」
「……」
「やっぱり、メグと行く」
一度、離れることを決心した私達。だけどその心はいとも簡単に崩れ落ちてしまった。
いくら心の中から追い出そうとしたって、消えてなんかくれなくて。寧ろ日に日に悲しさが募る一方で。涙を流さないことがなくなって。
「もう、あんな思いはしたくない。もう……メグと離れるなんて嫌」
「うん。俺も」
小さく震え出した私の右手を、包み込んだのはメグの大きな左手。手を繋ぐ。それだけで、こんなにも安心できる。
もう、絶対に離したり、しない。
ふたりの裏切者
世界中を裏切ってでも、離れられないひとがいる。
HP : amare / 藍澤れつ
God blessyou!様 12/01月お題