彼女は、一層綺麗になった。


これは最近よく思うこと。さっきだって今だって。

くしゃりと笑う顔なんて、それはもうある意味犯罪だろう。だってそれを見ると、俺は心臓が止まってしまいそうになるんだもの。

なんてまた彼女のことばかり。





「最近、多いね」

「え?」


まさか、俺は今のを全部口に出していたのか。それとも彼女が人の心を読める術でも持っているのか。

驚いて彼女を見つめると、雨。と言って肩をすくめてみせた。


「ああ。そうだね。」

「昨日も一昨日もその前もその前だって。雨ばっかり」


彼女の頬がぷくりと膨れた。


「雨、嫌い?」

「当たり前でしょ。暗いし湿気てるし濡れるし。良いことなんて無いじゃない?」

「そう。」


確かに。

ずしん、と重い固まりが胃の中にあるような。それに伴って気分もずんずん重くなっていく。そんな感覚。

こういうの、なんだっけ。ああ、そうだ。憂鬱、だ。

そういえば。こんな時は大抵、雨の日、だったな。


「俺も、雨は嫌い、かも」

「そう。」


窓の外を眺めながら、素っ気なく答える彼女。

その表情は、やっぱり綺麗。


だけど、俺はわかってる。


彼女が、一層綺麗になった理由も、雨が嫌いな理由も。


「先輩、やっぱり今日もバスで帰っちゃうんだなー……」


ぽつり、と呟く彼女。


窓の外を彼女同様に覗くと、校門付近に見える青いビニール傘。見覚えのある姿。

それは、彼女が想いをよせる相手。


「晴れたら歩いて一緒に帰れるんだけどねー」


くすり、今度は俺にはっきりそう言った。


ああ、そうか。俺は雨が嫌いなんかじゃないんだ。



憂鬱なのは雨、それとも

君のその先輩への想い。





HP : 赤いお部屋 /れッと

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