学校を出た時から、すでに雲に覆われていて薄暗かった空。


雨が降ってくる前に早く家に着いてしまおう。と思った俺は、少しだけ歩く速度を速めた。

にも関わらず、その思いは虚しく自然による予想の出来ないものに裏切られた。



「やべ、すっげー降ってきた」



丁度通りかかった、公園の中央に位置する屋根のあるベンチ。

空から落ちてくる雫から逃れる為、屋根の下へ駆け足で向かう。



「、あ」



先約が、いた。



「あの。隣、良いですか?」



ベンチに座ってぼーっと一点を見続けていた彼女は、俺の言葉に一瞬体をビクッと震わせて。

そらから、くすりともせずに「どうぞ」と彼女。その言葉に促されて彼女の横に腰を下ろす。



やっぱり一点を見続ける彼女。いや、見るというよりは、見つめるという方が合っている気がする。



「止みそうにないですね」



ぽつりと呟いたそれは、ザアアと雨の大きな音で彼女の耳には届かなかったらしい。

彼女はぴくりとも動かない。


ふと、今度は彼女が呟いた。だけど、その言葉はちゃんと俺の耳に届いた。



「雨、凄いですね」

「……そう、ですね」



会話終了。

またしても、彼女との間には長い長い沈黙。


だけど、居心地が良いと言えば嘘になるけれど、苦にはならかった。



「雨のおと、好き」



無表情。に見えるけど、微妙に目を細めた彼女。



「……なんで?」

「雨が演奏してるみたいで、綺麗。」



そう言って、目を瞑る。そんな彼女につられて俺の瞼も下りた。


ああ、本当だ。綺麗。


彼女の言う“雨の演奏”に耳を傾けていると、それに加わった歌声。

すっと心にまで入るような声。綺麗で透き通った透明な声。目には映らないのに輝いて見える声。


雨の音を伴奏に、彼女の“うた”はこの空間に響いて周りに広がっていく。



彼女の声が完全に空気に溶けていった後、僕は出来る限りの精一杯大袈裟に手を叩いた。


言葉では伝えきらないこの感動を、簡単に口に出す気にはなれなくて。

だけど、どうしても本当に素晴らしいと思った事を伝えたくて。


どうやらそれが伝わったらしく、彼女は目を細めた。



「ありがとう」



微笑む歌姫



彼女の綺麗な微笑みに

見惚れないわけが、ない。






HP : 赤いお部屋 / れッと

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