「岩木先輩のアドレス教えてください」


なんだよ、俺じゃねえのかよ。


柔らかそうな色素の薄い髪の毛をふわふわ揺らして、俺を追いかけてきたサッカー部のマネージャー。

慌てて走ってきたようで、はあはあと息を吐いては吸う。


あ、スリッパ左右反対だ。


それに気付いてくすり笑うと、首を少し横に傾けた。

可愛すぎんだろ。


「由良ちゃん、スリッパ」

「……え。あ!! う、あ、はい。す、すいません」


由良ちゃんは、顔を真っ赤にしながらスリッパを履き直した。


そんな反応するから勝手に「両想いかも」なんて変に勘違いしちゃったんだっつーの。


タオルや水筒を渡してくれる度に、由良ちゃんは恥ずかしがってあたふたしてた。

てっきり俺は好かれてるんだと思ってた。

が、ただ単に男と話すのが苦手というだけだったらしい。


「……で、岩木のアドレス?」

「は、はい!!」


赤外線で送る素振りを見せると、ぱあっと嬉しそうに笑った。

なんか、ムカつく。


「やっぱ、やーめた」


そう言って携帯を閉じると、今度はしゅんと悲しそうに眉を下げた。


あ、今ちょっと、ときめいた。


岩木のアドレスを受信する為に開いた自分の携帯を握り、俯く由良ちゃん。

俯いているからわからない表情を見ようと、顔を覗き込む。


「由良ちゃん?」

「え、あ、ゆ、祐先輩」


やっぱりテンパる由良ちゃんが可笑しくて、可愛くて、緩む頬を隠しながら携帯を近づけた。

受信画面を見た由良ちゃんは不思議そうに俺を見る。


「え、これ」

「俺のアドレス」


挙動不審な由良ちゃんは「え」を連呼し続けている。


そんな所も可愛いんだけど。


俺は、そのふわふわした髪をぽんぽんと撫でて、微笑んだ。


「メール、待ってるから。」



途端、鳴る心臓の音


実はやっぱり両想い。






HP : 赤いお部屋 / れッと

蝶々くらべ様 提出