「おめでとうございます」


最近、よく耳にするその言葉。

その理由は、段々と大きくなっていく私のお腹に関係があるのだろう。






「おはよう」


半日も眠っていながら未だ眠たそうに、目を擦りながらリビングに入ってきた利一。


「侑子、はやいね」

「お母さんですから。」


私がふっと目を細めて笑うと、利一はふっと眉を下げた。


「利一?」


沈んだ面持ちの利一の側に歩み寄ると、彼はやっぱり眉を下げて力なく笑う。

へりゃりくにゃり、と、軽く押してしまえば倒れそうなほど弱々しい。そんな彼の腕に遠慮がちに触れる。

すると、私のその手を片手で包み込みもう一方の手は私の背に。


「侑子、ゆっくり休んで。ソファーに座っといて良いから」


お腹が大きく体が重く歩くのさえしんどい私を気遣って、ゆっくりとソファーまで促してくれる。

そして、私の横に腰を降ろすと私達二人の子が宿っている辺りをそっと擦り始めた。


その表情はやっぱり切なげ。


「大丈夫よ」


私は、近くにいる利一にも聞こえるか聞こえないか位小さな声を溢した。

無意識に溢れたその言葉に、自分自身が驚いた。それくらい、私には利一が切なそうに見えたのだろう。

ゆらり、眼鏡の奥の瞳が揺れたかと思うと、利一は私の目を見つめる。


「え?」

「なんとかなるわ。だって、これからは、三人なんだもの。」


ほんの一瞬、黒縁の奥の目が大きくなった。だけど直ぐにそれは細くなり、ふふっと声。


「なによ」

「いや、侑子にはなんでもお見通しなんだなぁーって思って」

「妻ですから。」


私がふっと目を細めて笑うと、利一もふっと目を細めて笑った。


「なに、マタニティブルーってやつ?」

「んーそうかもね」

「夫が?」

「夫が!」


二人して、笑い会う。



とりあえず、大丈夫そうだ。




HP : 赤いお部屋 / れッと

God bless you!様 04/05月お題