話があるんだけど。と真剣な声色の彼女にドキリとした。
初めから、嫌な予感はしてたんだ。彼女に彼を紹介した、あの時から。
ずっと好きだった。ずっとずっと大好きで、猛アタックしてやっと振り向いてくれた彼氏だった。
彼の気持ちの変化に、気付かないわけない。親友の彼女の気持ちも同様に。
「……怒らないで、ね?」
首を縦に振るも、彼女は言うことを躊躇っている様で。眉を下げて力無く笑う。
「……、サトルと付き合った」
三十分経ってから、いや数分だったのかもしれないが。彼女は漸く言った。語尾が段々と小さくなっていた。
「ごめん、」
「……。」
「……、本当、ごめん……」
彼女の表情は、今にも泣き出してしまいそうな程に辛そう。
辛いのは、私だ。大好きな彼が親友と付き合ってしまったのだから。
彼には、一昨日フラれた。理由は簡単。“好きなコができたから”だ。
だから、二股をかけられたわけでは無い。彼にも彼女にも、非はない。二人共キチンと私に言ってくれたのだから。
「……、ごめんね、ごめん」
何も言わない私に、彼女は怯えているようだった。
私に怒鳴られると思っているのか、はたまた私に嫌われるとおもっているのか。
どちらにせよ、彼女の中には罪悪感というものがたぷたぷと溜まっているのだろう。
「いいよ」
「え……」
「良かったね」
だけど彼女はずるい。謝られれば、泣きそうにされれば、辛そうにされれば
私は、怒ることも出来ないし、泣くことも出来ないし、辛いと言うことさえ出来ない。
その事を知っているのだ。
怒りたい。だけど、今の気持ちに任せて怒鳴ったってそのせいで傷付くであろう彼女を見て私は後で後悔するだけだ。
泣いて辛いと言いたい。だけど、そうすれば自分を責め続ける事にだろう彼女を見てもっと辛くなるだけだ。
そう考えられる私は冷静だな、と。意外と彼のことはそれ程好きでもないのかとも思えるが、
冷静に考えられるからといって、心の中には黒いものがぐるぐる渦巻いている事に変わりはない。
やはりまだ彼の事が大好きなんだな。
「おめでとう」
そう言い、気にしていない様に装った仮面の下の黒いものを必死で抑えている私は
綺麗に笑えているだろうか。
仮面を外さぬ理由。
だって、彼女の事も大事だから。
HP : 赤いお部屋 / れッと
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