「飛べたら良いのに、ね」



空を見上げて、いや空の中を自由に飛び回るあの白い鳥を見上げて、私は呟いた。


それを聞いたメグは一度こちらに視線を向けた後、再び私同様に頭を上げる。

ふうっと溜め息。今度は私がメグに視線を向けて、だけどやはりすぐ上に視線を戻す。



「メグ」



視線はそのままで名前を呼ぶと、「目黒、だ」と返された。

それでもメグと呼べば、諦めた様で「なに?」と苦笑。



「流さないでほしいんだけど。」

「飛べたらいいのに、ってやつ?」



ん、と一言。直後、ふっと小さく笑うメグ。


バサ、と頭上で鳥が白い羽根を羽ばたかせて悠々と飛んでいく。

私とメグは、その白い鳥が空にの彼方に消えるまで眺め続けた。



「小林」

「うん」

「無理だよ」

「うん」

「あー、小林」

「うん」

「なんで泣きそうなの」



メグに言われるまで気付かなかった。



「泣きそうじゃない」

「嘘つけ」



見ればメグの眉も下がっていて、目が潤んでいて、今にも泣きそうで。多分、私も一緒。



「飛べるかな」

「え?」

「ここから飛び降りれば」



フェンスに手をかけるとカシャンと音がした。

これを越えれば、ただの高いコンクリート。高い高いコンクリート。



「ちょ、小林……!!」

「じょーだん」

「、ビビらせんなよ」



くすりと笑えば、はあーと安堵の息。

それから、メグはやっぱり泣きそうな顔して笑う。



「どこか、俺達の事を全然知らない人達がいるところへ逃げれたら良いのに、ね」



カシャン、私の隣に来てフェンスに背中を預けたメグ。


メグは私の顔を見て、私はメグの顔を見て。



「お願いだから、」

「……うん」



顔に力が入った。眉間にシワが寄って、下唇を噛んで。

メグも同じ。



「そんな事、言わないで」

「こ、ばやし」



じわじわ熱くなる目元。



「無理、だよ」

「なんで、」

「だって私達」

「身分が違うから……?」

「……っ、」



鼻の奥がツンとした。


二人して座り込んで私はメグの背中に、メグは私の背中に腕を回す。

ぽろぽろ落ちる涙がメグのシャツに染み込んだ。



「飛べたら良いのに、ね」

「うん」

「逃げれたら良いのに、ね」

「うん」

「でも……、」

「どこにも行けない」



メグと私で決めた。私達は明日から、他人。



ふたりの逃亡者



夢から逃げて、現実を生きる。





HP : 赤いお部屋 / れッと

God bless you!様 02/03月お題