むかしむかーし。


あるところに、それはそれは綺麗で可憐でキュートな美しい女がいました。


その女の名は、睦美





「だーれが綺麗で可憐でキュートな美しい女だって?」


「あたし」




そう言ってニカッと八重歯を見せて笑う目の前の女、睦美。


とても美しいなんて言えるような外見ではない。




「お前そんなん言って虚しくなんねーのかよ」


「なんでよ」


「……なんでもだよ」




なんなのよー。とか言いながらいちごみるくの紙パックにささっているストローをくわえる。


いちごみるくみたいな甘ったるそうな物を飲める意味がわからない。




「ん? 飲みたい?」


「いらねー」




顔をしかめた俺にふふと笑う睦美。


わざと大袈裟に溜め息をついてみせると「幸せ逃げるよ」なんて言ってけらけら笑う。


とりあえず吐いた息を吸って幸せを捕まえておいた。




「ねーねー洋一」


「んー?」


「なんで主人公ってみんな綺麗で可愛い子なのかな?」




未だいちごみるくを飲みながら、雑誌をぺらぺら捲る。


さっきの「むかしむかーし」のあの話の事かと思いつつ睦美を見る。




「白雪姫もシンデレラも美しいっていう設定なんだよね」


「そんで最後は王子様と結ばれる、だろ?」


「そう。一目惚れって所が凄いよね、バリバリ見た目じゃん。子供が読む話なのにねー」




残り少なくなったのか、いちごみるくを飲む睦美からずずずと音が聞こえる。


少し経って音もなくなり睦美は紙パックを手で潰して、約一メートル先のゴミ箱に投げ入れた。




「結局見た目だよねー」




まだ言っている。


俺は別に主人公になりたいなんて思っていないから、正直どうでもいい。




「脇役だって恋をする」


「は……?」


「主人公じゃなくても良くね? 人魚姫なんて泡になるんだぜ」




俺だったら脇役のあの王子様と結婚する女の人になりたい。


別に白雪姫の七人のこびとでもいい。


脇役だって幸せになれるのだから。




「お前は王子様と幸せになりたいわけ?」


「んー、まあそういう事だねー」


「ふーん」


「興味ないんかい」




王子様、ね。


睦美が王子様と幸せになりたいって言うんなら仕方ないな、と思う。


どこに隠し持っていたのか、再び紙パックのいちごみるくを飲み出した睦美。




「いちごみるく、ちょうだい」


「え、珍しいね。洋一が飲むの」


「いいんだよ」




君のためなら



いちごみるくも飲んでやる。

王子様にだってなってやる。






HP : 赤いお部屋 / れッと

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