勉強会


「お邪魔しま〜す」
「ちゃんと課題は持ってきたか?」
「も、もちろんですよ!ほら、重かったんですから!」
「お疲れ様、飲み物を出すから、座っててくれ」
「はーい、あ、先生、私クッキー焼いてきたんです!」
「なら、それも一緒にいただこう。」
「私、お皿出しますね」

2人で台所に立つ。いつも夕飯を食べるときは全然気にならなかったけれど、夏休みなのにイタチ先生にこうして会えているって特別感が、私のドキドキを強くした。
いつもはお互いに制服とスーツだけど、今日は私服だし。イタチ先生も、Tシャツとか着るんだ…なんて思いながら、出したお皿にクッキーを盛り入れる。こうやって勝手がきくようになってきたあたり、随分この家に詳しくなったなあ、なんて思いながらついついにやけた。

「今日はなんの課題持ってきたんだ?」
「数学と、英語です」
「はは、ヒメさんの苦手分野ばっかりだな」
「折角イタチ先生が教えてくれるんだから、当たり前です!この機会にわからないところじゃんじゃん聞きますから!」
「次の中間テストは期待できるな」
「うっ」

頑張れよ、って頭を小突かれて、またにやけてしまうどうしようもないこの口。
イタチ先生に見られないように先に部屋まで行ってテーブルにクッキーを置き、カバンから勉強道具を取り出した。

「そう言えば、先生は宿題みたいなのってないんですか?」
「あるぞ、俺は小テストの作成とか…体育祭の決め事とか…」
「あ、体育祭!忘れてた!!」
「ナルトが、衣装長はヒメさんを指名するって張り切ってたぞ。」
「えー!?私なにも言ってないのに!!ってゆーか、あいつ応援団長やる気満々じゃん!もー…」
「それだけ頼りにされてるってことだ。」
「それはそれでありがたいけど…」

膨れっ面でプリントと教科書を広げると、イタチ先生も筆箱からペンを手に取った。さすが先生、みんなに出された夏休みの宿題と同じものを持っている。
まずは20分、プリントをやってみて、答え合わせ。そう言って、私たちはプリントに向き合った。けど、私の心はどっか上の空で、実際のところ全然集中できそうにない。
だって、だって、夏休みに2人きりで、しかもテーブルを挟んでこんな近距離で、顔は見れないけど綺麗な手元はガン見できるこの状況、誰だって落ち着かないでしょ!!時々先生が髪を耳にかける、その仕草だけで私の心臓はどうにかなってしまいそうだ。
…でも、20分経って1問もできませんでした、じゃ呆れられるだけだから、集中しないと。
そう思いながら口にしたイタチ先生が作ったカルピスは、目分量だからちょっと濃い目だった。

「…はい、20分…どうだ?できたか?」
「い、一応…1枚できました!」
「上出来、じゃあ…答え合わせするか」
「お願いします…間違ってても笑わないでくださいね!」
「気にするな、学生は間違えるのも仕事のうちだ。」

そう言いながら、先生は私のプリントに目を通していく。正直、全然分からなくて頭に浮かんだ公式を無理矢理ねじ込んだ問題もあったし、不安でいっぱいだ。
上から下まで一通り目を通したあと、イタチ先生がおもむろにクッキーに手を伸ばす。
…なんだか、嫌な予感しかしない。

「…そう言えば」
「は、はい!」
「前回の期末テストの数学の点数は?」
「な…76点です…」
「そんなに悪くないじゃないか」
「え、えっと…」
「ああ、範囲によって得意不得意にバラつきがあるのか」
「はあ…」

プリント1枚でこうも分析されていく私の数学事情。恥ずかしいからそんなのやめてさっさと採点とか、直すところとか教えて欲しいんだけどな…って私の願いが聞き届けられるわけもなく、先生はまだプリントと葛藤している。私はついにいたたまれなくなって、ええい、先にやってしまおう、と2枚目のプリントに手を伸ばした。

「…きっとそっちのプリントなら、満点とれるだろう」
「へ?」
「それが終わるまでに、こっちのプリントのポイントは紙にまとめておくから、そのまま先にそっちやっててくれ」
「は、はい」

この私が、いくら夏休みの宿題のプリントと言えど満点だなんてそんな、有り得ないでしょー!なんて思いながら挑んだ2枚目は、自分でも驚く程そこまで悩まずに解けて。あれ?あれ?と思っていると先生が1枚目のプリントと一緒に、先生直筆のヒントを書いたコピー用紙をこちらに向けた。わあ、なんて優しいんだこの先生は。

「できたか?」
「できました!」
「よし。…さっきのプリントは…多分、当てはめる公式すらわかってなかったと思うんだが」
「ば、ばれてる!」
「…でも、それさえわかれば解けるようになるから…練習あるのみだ」
「はあい…」
「やっぱり、こっちのは良く出来てる」

そう言ってパキンとクッキーをかじった先生につられて、私も手を伸ばす。これ、気に入ってくれたかな。
「満点だ」って微笑んだ先生を思わず凝視しそうになって、慌ててもうひとつクッキーに手を伸ばした。

今日1日、私の心臓は一体もつのだろうか。


(20140807)


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thanx!! :)


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