1秒でも早く

(イタチ)





『まもなく、12番線に、とき108号、東京行き、10両編成で到着します。危険ですので、お待ちのお客様は黄色い線までお下がりください。』

アナウンスのあと暫くして、ぷあー、と音を立てて私の目の前に止まる新幹線。たくさんの降りてくる人々を横目に乗り込む。これから私は、東京に出る。


「しかしよく決めたもんだな、」
「私もまさか受かるとは思ってなかったけどね。」

時は遡り、昨夜。私は愛しの彼と電話していた。彼は今春大学院を卒業し、4月から都内で勤務している、いわゆる新社会人。しかし私はどうしても傍に居たくて、東京に住んでみたいと言う憧れも手伝って、自分ができる限りのことをして悪あがいた。結果、この中途半端な時期に転職が成功し、晴れて上京できる運びとなったのである。これには彼も驚きながら喜んでくれた。

「でね、明日行くから。」
「仕事は?」
「明後日から。」
「夜空いてるか?食事にでも行こう、」
「うん!また明日連絡するね。」

今夜は久々にイタチに会える。そう思っただけで胸は高鳴った。電波の届かないトンネルの中でさえ、無意味に携帯をいじってしまう。新しい職場への緊張感よりも彼に会える喜びのほうが大きいだなんて、自分でも自分に可笑しくなって嘲笑(わら)った。

『気を付けて来るんだぞ。』

その暖かいメールが届いたとき、私の顔は涙に歪む。大好き、大好き、大好き。溢れ出すその気持ちを胸に抱きつつ、私はまた電波が途絶えて通信不可になった携帯を睨んだ。


1秒でも早く

(今すぐにでも会いたいよ、心から愛する人。)




2012/05/31




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