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▼3,2,1で覚悟を決める


ねえ、

「芸術は爆発だ!」

ねえ、デイダラ、

「なまえもそう思うだろ!?うん!」

あなたがもしいつか本当にその身ごと散ってしまったら、私はどうしたらいいの。
いつもの芸術談義を聞くのも嫌になって、彼の隣で俯いた。
デイダラが強い爆弾を作れることも、自分の身体を芸術用に改造していることも、私は知っていたしそれを造るのを隣でこうして見てきたけれど、それを肯定したことも否定したこともない。
それがどんな術であれ、彼が一生懸命造っていることに変わりはないのに。なのに、私はそれを見て切ない顔をすることしか、できなかった。だって、彼の胸に刻まれた傷を見るたびに「お前を残して俺は散るんだ」と言われているような気がして。彼が私を独り遺していくことをなんとも思っていないように感じて。
そもそも、彼がそこまでの気持ちを私に抱いてくれているかも甚だ疑問だ。

ああ、もう考えるのやめよう。
いつもいつも、同じところに行き着いて私は無理矢理悩むのを中断させる。
隣の彼は満足そうに粘土をこねている。
出会った最初の頃は、色々な動物たちがデイダラの手で形作られていく過程を見るのが好きだったし、飽きもせず何時間も眺めていたけど、ある日どこからかそんな純粋な気持ちが私の中から消えてしまった。彼の使う爆発技が、造形物が、この動物たちまでで留まっていれば良かったのに。

ふと、意識を戻すと、目と鼻の先にあったデイダラの顔に驚きのあまりひぃと息を呑む。
そんな私の顔がよっぽど面白かったのか、彼はけらけらと笑いながら頭をわしゃわしゃと撫でつけた。こっちは全然笑い事なんかじゃ、ないってのに。

「どうした?うん」
「…デイダラ、は、」
「うん?」

開きかけた口を、慌てて閉ざす。

何を聞こうとしているんだ、私は。
本当に身体ごと爆発するつもりなの?私を置いていくの?そんなことを聞いたところで、一体私が望む答えは潔く返ってくるだろうか。返ってきたとして、間違いなく私を宥めるための一時のセリフだろうし、そんなつもりがもし本当になかったのだとしたら、最初からこんな改造を自らの身体にすることなんてないんだ。
ぐるぐる、同じところを回る。黙りこくる私をいよいよ心配し始めた彼には必死に作った笑いを向けた。

「…オイラは、強くなんなきゃいけねーんだ、うん」

私、何も言ってないのに。
なのに、彼からそんな言葉が出るなんて、思ってもみなかった。
粘土を捏ねる手は止まらないけれど、それでも彼ははっきり私に言った。なんで?って聞くこともできずに、黙る私を他所に形作られていくそれは彼が移動に使うための鳥だ。

「強くなんねーと、なまえのことも守れねーだろ?うん。」
「デイダラは…充分、強いよ。」
「オイラなんてまだまだ。せめてイタチのやろーぶっ飛ばせるくらいにならねーとな、うん!」
「…デイ、」

だん!!

驚きのあまり、目を見開く。
壁に叩きつけられた彼の拳が震えているのを見て、なぜだかものすごく申し訳ない気持ちになったけど、その理由がわからない。

「それ以上なにも言うなよ…!!」

泣きそうな顔をしてこっちを向いたデイダラに息を呑む。
たくさんの言葉を全部飲み込んだであろう彼は、私に覆いかぶさるように抱きついた。ふわふわの髪が顔にかかる。熱い彼の身体を抱きしめ返しながら、デイダラの背中ってこんなに大きかったかなとぼんやり思った。

「なまえがそれ以上なにか言ったら…オイラ、きっと戦えなくなるから」

今すぐにでもこっから逃げ出して、なまえと2人っきりで生きたくなるから。
でも、それでもオイラは戦いたいから、だから。

そのあとの言葉は、私の唇が呑んだ。
ぬめり、割り入った舌を甘んじて受け入れる。それくらい私のこと想ってくれてるんだったら、もうなんでもいいや。なんでもいい、って言うのは少し語弊が生じるけど、まあ、それでいい。私と一緒に居たいと思うデイダラも、自分の芸術で戦い抜きたいと思うデイダラも、どっちも本当なんだと思った。確かに、私を愛してくれるデイダラが私は好きだけど、爆発は芸術だと言って屈託なく笑う彼のことも、もちろん好きだから。

だから、とりあえず脇腹をまさぐり始めた彼の手を許そう。

「…なまえ、好き」
「私も、デイダラのこと大好きだよ。」


3,2,1で覚悟を決める

("もしも"を考えて泣くのは今日で終わりだ)


20140921

   

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