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▼Christmas magic

※学パロ



さくり、さくり

薄く積もった雪道を歩くたび、聞こえてくる音に集中しながら坂道をのぼっていく。
目の前にそびえたつ建物が、私の目的地だ。

-私立木ノ葉学園-

初等部から高等部までの校舎が全てこの土地に兼ね備えられていて、立地が特別良いわけでも、偏差値がばかみたいに高いわけでもないこの学園は、それでも地元ではそこそこの名門校で、卒業生に有名人も多い。小説家の自来也先生とか、医者の綱手さんなんかがその類いだ。他にも芸能活動をしている人がいるとかいないとか、そんな噂はちらほら耳にする。

「おはよう、なまえ」
「おはよう、イタチ」

急に後ろから呼ばれてくるりとそちらにつま先を向けると、非常に端正な顔立ちが私の前に現れた。彼はこの学園の高等部生徒会長であり、全国的に有名な"うちは財閥"のお坊ちゃま、うちはイタチだ。私は彼の推薦で生徒会書記を担当しているので、そこそこ関わることも、こうして話しかけてもらえるタイミングも多い。そのおかげで時々変な嫌がらせを受けることもあるけれど、私にどうこうできる問題ではないし、嫉妬してしまう女の子たちの気持ちも分からなくはないから、誰にも話したことはない。ああ、それにしても綺麗な顔をしているなあと見惚れていると、彼は不思議そうに首を傾げた。

「どうした?」
「あ、ううん、なんでもないよ」
「そろそろ冬休みだな」
「そうだね…大掃除だのなんだのって、忙しくなるね」

2人ならんで、またさくさくと音を立てながら校舎に向かう。12月初旬、気候はすっかり冬だ。マフラーだけじゃなくて、そろそろ手袋も必要だなあと思いながら、残り約2週間ほどの通学の間にこれ以上雪が積もらないといいなとぼんやり考えた。

「なまえは、クリスマスの予定はなにかあるのか?」
「クリスマスかあ…何も考えてないかなあ…」
「それなら、一緒にケーキでも食べないか」
「え、ど、どこで?」
「お邪魔でなければ、なまえの家で。」





Christmas magic





「ピザ良し、チキン良し…」

12月24日、待ち合わせの午後18時、10分前。
私はテーブルの上に並べた豪勢な食事の前であたふたしていた。
一緒にケーキを食べないかと聞かれたあの日、よく回っていない頭で「いいよ」と返事した結果、あれよあれよと計画話が進んで、いつの間にか当日になっていた、なんて、嘘っぽいかもしれないけれど本当の話で。たぶん彼は私が1人暮らしなことに気を使って誘ってくれたんだろうということは分かっていたけど、でも、それでも彼が家族と過ごすはずだった時間を私が奪ってしまったんじゃないかと思ったら、申し訳ない気持ちで胸がきゅうっと苦しくなった。確か中等部に弟さんがいたはずだ。考えれば考えるほど大きく膨れ上がる罪悪感が破裂しそうになった頃、インターホンが鳴る。ハッと時計に目をやると、約束していた時間の5分前を指していた。

「はーい!」
「ギリギリになってすまない、ケーキ屋が思ったよりも長蛇の列で…」
「いいのいいの、受け取りに行ってくれただけでもとっても助かった、ありがとう!」

どうやら外は雪が降っていたようで、受け取ったケーキの箱も、彼のコートもうっすら白い。コート掛けの場所を教えつつ、私はケーキを冷蔵庫にしまいに行った。代わりに飲み物を出しながら、そういえば、私服を見るのも見られるのも初めてだなと、コートについていた雪を丁寧に玄関で払ってからハンガーに手を伸ばしている彼に、目を泳がせる。黒いジャケット、黒いスキニーパンツがよく似合う。いや、ちょっとこれは、雰囲気が大人すぎるのでは、

「何か手伝うことはあるか?」
「テーブルの上に全部出してあるから大丈夫、飲み物コーラでいい?」
「ああ」

慌てて居間に案内し、グラスにコーラを注ぐ。半分以上が泡で埋まったグラスを見て、彼がくすりと笑った。は、恥ずかしい。全神経を集中させて挑んだ2つ目のグラスには先ほどよりきれいに注ぐことができたので、すかさずそれを彼の前に置いた。

「きょ、今日は私を誘ってくれてありがとう」
「こちらこそ、快く承諾してくれて感謝している」
「あの…家族と過ごさなくて大丈夫だったの?」
「明日が金曜だからか、明日のほうが都合がいいらしい。うちは明日ケーキを用意すると母が言っていた」

だからなまえは何も気にするな。
そう言って、彼は右手のひらで私の頭を撫でつけた。予想外の行為に、私は硬直することしかできないし、ぱかんと開いた口も塞がらない。な、なに、なんで、そもそも私はついこないだまで他の誰かも来ると思っていたのに、まさかふたりきりだなんて、

「そ、そうなんだ、あ、あの、でも、だからってどうして私とふたり、で」
「…鈍感にもほどがあるというか、なんというか…」
「鈍感…?」
「なまえは、好きでもない異性とクリスマスを2人きりで過ごすのか?」
「い、や、あの、えっ…え!?」

正直、私にとって彼は男女の好き嫌いがどうとか言うんじゃなくて憧れの対象だったし、これがきっかけで意識してもらえたらとか、付き合えたらいいなとか、そんな考えはなかった。いや、もちろん、好きか嫌いかで言われたら好きだし、でも、雲の上の存在だったというか、なんというか。今日のことも、まだ夢と思っているくらいで…、そんなようなことを、これの倍以上どもりながらあたふたと説明している途中で、彼が痺れを切らしたようだ。手に持っていたグラスを取り上げられ、テーブルの上に戻される。そのあとに握られた手をそのまま引かれて、なにも抵抗できないまま彼の胸元に突っ伏した。背に回された彼の手が熱い。

「い、イタチ、」
「好きだ」
「…え」
「初等部の頃から、ずっと」
「う、そ」
「なぜだか俺となまえは初等部の頃からあまり同じクラスにならなかったから…いい加減、耐えかねて生徒会に無理矢理押し込んでしまった」

5、6年生の時だけ同じクラスだったんだが、覚えてるか?なんて言われて、私はようやく思い出す。そうだ、確かに初等部の修学旅行では同じ班だった。今思えばもしかしてそれも、彼の工作の結果なのだろうか。

「なんで…私、を…」
「もう覚えてないかもしれないが…当時から財閥の息子だからと煙たがられていた俺に、分け隔てなく接してくれたのはなまえが初めてだったんだ。」

そう言えば、私を生徒会書記に推薦してくれた時も、同じような文句を述べてくれていたなあと思いだす。私、彼の前でそんな目立つようなことしたかなあと疑問だったけれど、あれは初等部の頃の思い出が元だったのか…申し訳ないけど微塵も覚えていない。でも、逆に彼を特別視したことも確かになかった。だってお坊ちゃまだろうがなんだろうが、そう言った特別な人間は私とは無縁の生き物だと思っていたんだもの。特別扱いしてくれる人なんて山ほどいるだろうから、私までその世界に合わせる必要はない、なんて、ひどく消極的な理由かもしれないけれど。幼い頃の彼がそんな適当な私を見て少しでも気持ちが楽になってくれたなら、それはそれでいいか。

「そ、っか、」

いや、しかし、これはまずい。
引き寄せられ、抱きしめられるような体勢のまま上を向くと、にこにこと微笑む彼の顔。なんと破壊力の高いことか。とりあえず一旦距離を置こうと思い立ち、彼の胸と私の胸の間で窮屈そうにしている2本の腕を伸ばそうと力を入れたけど、何の意味もなさなかったし、むしろ更に力を込められて密着度が増した。なんてこったい。

「なまえは…どう思う」
「…どう、って」
「俺のこと」

どう思う。すごく難しい質問だ。はっきりと、嫌いではないことは確定している。いやでも、好きかと言われたら、分からない。人として最低限の好意はある。イタチは良い人だし、私を評価してくれていたことは素直に嬉しい。だけどやっぱり、異性として特別な意味で好きかと言われたら、YESとは言えない微妙な気持ち。イケメンだし、成績優秀、運動神経も抜群、男として最高なステータスを所有しているであろうことも良く解る。解っているのに、だ。こう、考えを張り巡らしている間にも、遠慮なくずいずいと顔を近づけてくるせいで思考回路が上手く回らない。

「ち、近い!」
「嫌い?」
「嫌い、じゃ、ない…」
「上等。」
「へ、」
「好きにさせるから。」

彼の顔が更にぐっと近づいた、と、思ったら、触れた唇。
何が起こったのか状況整理が追い付いていない私をようやく腕から解放して、のんきにピザへ手を伸ばしている。ちょっと待て。今のはなんだ。なんなら、さっきから話がなんかおかしくないか。なんで私のファーストキスがこんなに味気なく奪われねばならなかったのか。

「どういうこと?」
「今この瞬間から俺たちは恋人ってことだ」
「へえ?」
「ほら、早く食べないと御馳走が冷めるぞ」
「へえ…?」
「なまえ相手に遠回しなアピールをしていても無駄だということが、今までの経験からよく解った。2人きりになってもこの調子じゃ埒が明かない。今後は俺も容赦しないから、そのつもりで。」

あれ?恋愛って、こういうものだったっけ?
狐につままれたような顔をしたまま、私もピザへと手を伸ばした。

(気づいたら数年後おしどり夫婦になっていたのは、また別の話)



20201207

   

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