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▼青天の霹靂

「なんで!なんで…自分をもっと大事にしないの…!」

割れたガラス、床に広がった透明な液体をそのままに、声を荒らげた。
目の前で床に伏している彼は大量の薬剤を口に放り込み、それを無理矢理飲み込もうとしている。いつの間にそんなに薬が増えたの?そう聞いても、彼は口を割らない。たまに厠へ行くと言ってベッドから這い出るのはほとんど排泄のためではないと気づいたのはもう随分前からだ。
ちなみに私がこんなふうにヒステリックに騒ぎ立てたのはこれが初めてで、夕食後に彼がおもむろに取り出した薬の数が10はくだらなかったので今まで抑えていた気持ちがとうとう爆発してしまった。眼前の彼はすっかり取り乱した私を最初は少し驚いた目で見ていたものの、こうなることは既にお見通しだったとでも言わんばかりにスルーをかまして水分なしに薬剤を全て飲み込みきったあと、何事もなかったかのように枕を背もたれにベッドへ半身を沈めた。

「薬が増えたの…なんで言わなかったの」
「言ってなんになる、どうしようもないことだ」
「だからって…だからって!悪化したならそう言ってくれれば私だってもっと…」

もっと、労わることだって、治療に専念することだってできたのに。
そう思いながら言葉を濁すと、目の前の彼は「お前に負担をかけてどうする」と私を一喝して目を閉じた。そんな状態になってまで私の心配?私の少しの負担であなたが楽になるなら、善くなるならそれ以上のことはないっていうのに。

「余計なことは考えるな、どちらにしろ…もう時間はないんだ」
「だったら…なんであの時私を連れて行ったの、わざわざ、木ノ葉から…」

もしここで彼の口から出た答えが 恋人だから、だとか、そんな甘い理由じゃなくて、医療忍術を嗜んでいる私に治療してもらうため、と言う理由だったなら。そうだったなら、私は彼を羽交い締めしてでも全力で治療してやろう。完治まではいかなくても、薬を減らすことくらいできる。大体、主治医に黙って薬師とやり取りして薬を増やすとはいかがなもんか。いただけない、いただけないぞ。今に見てろ。
そう思いながら、拳を強く握った。

「ただ…傍にいて欲しかった」
「…っ、」
「なまえと…一緒に、いたかったんだ」

俺がわがままを言えるのはお前にくらいだからな、

直後に見せた微笑みに崩れたのは私だった。

「馬鹿…!それなら、尚更ちゃんと治療しないと!」
「いや、…俺の身体のことは俺自身がよく解る。」
「だから、なんでもっとそれを早く!」
「なまえ」
「イタチと一緒にいたいのは私も一緒なの!!そんな中途半端なわがまま言うくらいなら…もっと甘えてよ!」

そこいらにあったクッションを手当たり次第に投げつけて、遂には握った拳を振り上げたところで、腕を引かれてベッドの上へ引きずり込まれて暗転。胸板にぎゅうぎゅう押し付けられ、苦しくなって顔を上げたところに唇が降った。こんな空気に流されてたまるかと服を引っ張ったけれど、変な勘違いをされて布団の中に閉じ込められただけ。しかめっ面で黙っていれば、彼はそれを気にもせず私の首元へ顔をうずめて満足そうに目をつぶる。

「ちょっと、いきなりなにっ」
「こうしてなまえといる時間も増えたし、こうやって抱き締めて寝ている時が一番幸せだ」
「だ、だからなんなの」
「病気になって…俺は悪いことばかりじゃなかったぞ」
「は?でも健康体にこしたことはないでしょ」
「…笑った顔の方が可愛いぞ」
「話をはぐらかすんじゃない!」
「治療に時間を使うより、一緒にいる時間をもっと大事にしたいということだ」

本当に鈍い女だな、って、それ余計じゃない?
大体、治療に専念したら一緒にいる時間だってもっと増えるでしょ?
でも、目の前の彼は切なそうな笑みを浮かべて黙っているだけ。
私を諭すかのように優しく頭を撫でて、またぎゅうと抱き込んだ。

「やめてくれ…本当に…」
「え…?」
「なまえといると覚悟が揺らぎそうで怖いんだ」
「い、一緒にいたいって、言ってたじゃない」
「それが願いでもあり、障害でもある」
「…私が気づいてないとでも思ってるの?」
「…」
「この雰囲気に免じて今は突っ込まないけど、とりあえずそれ以上薬増やしたら容赦しないわよ」
「俺の主治医は随分とスパルタだな」
「当然!」

明日はみっちり診察と治療を受けてもらいます!と鼻息を荒らげた私に向かって、あくびをひとつ。
全く…人の気も知らないで。
そう思いながら、彼の腕の中で目蓋が落ちていく私も他人のこと言えた口じゃないけど。でも、今日は普段聞けない本音が聞けたからまあいっか。


青天の霹靂

「ぎゃあ!床が水浸し!ああコップが!」
「忘れてたのか…」


20150131







   

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