short | ナノ


▼SURPRISE

(現代パロ)


「なまえ」
「ん?」
「付き合って欲しいんだが」

時刻は15時50分、ミーティングの10分前。
予定時間よりも早く集まった私の正面に、同じように早めに来た同期のイタチが腰掛ける。
幅1メートルほどのテーブルを間に挟んで、私たちは資料を広げた。他にこのミーティングに参加するのは同じ部署のデイダラとサソリと鬼鮫だけど、生憎デイダラとサソリは今日出ていた外回りの営業が長引いているとかなんだとかで時間丁度に到着しそうにないと連絡が来ている。鬼鮫はそのうちやってくるだろう。

「…どこに?」
「強いて言うなら…そうだな、死ぬまで、だな」
「あ、ごめん、グラフの資料忘れてきたから取りに行ってくる」
「ああ」

危ない危ない、あの資料がなければ数字の説明が何もできなくなるところだった!
慌てて自席のパソコンからデータを5人分プリントアウトして、まだ時間に余裕があるからとついでにマグカップに紅茶を入れて会議室に戻る。

「あ、鬼鮫、お疲れ様」
「お疲れ様です。いいですねえ、コーヒーですか?」
「ううん、私は苦いのが苦手だから紅茶なの。コーヒーいれてこようか?」
「すいません、では、折角なのでお願いしますよ」
「うん、じゃあ、この資料配っておいてくれる?」
「わかりました。」
「イタチも飲む?」
「じゃあ、俺はほうじ茶を頼む」
「オッケー」

コーヒーを飲むのは少し苦手だけれど、いれるのは案外嫌いじゃない。このコポコポと音を立てて動く機械を見てるのがちょっと面白いし、カプチーノの上のふわふわのミルクを入れる時なんて特にたまらない。このミルクだけを入れて飲んでいたいほど、このミルクは柔らかくて美味しい味がする。鬼鮫がいつも飲んでいるのは確かブラックだったと思うけど、私はどうしてもカプチーノの上のミルクが作りたくて最終的に出来上がったのはカプチーノだった。まあ、ブラック注文されてないからいいよね。
カプチーノができたあとは、イタチが飲むといったほうじ茶をいれて、それらを小さなトレイに乗せた。
こんなに動くんだったら、今日はパンツを履いてきても良かったかもしれないなあ、そう思いながらドアを開けようとしたとき、まさに自動ドアのようなタイミングでぐんと開いたそれに驚いて目を丸くした。

「っはー!あと2分!ギリギリ間に合ったか!?」
「いいから早く必要なもん持って会議室に行くぞ、」

ドアを開けて飛び込んできたのは営業帰りのデイダラとサソリで、2人は焦っているのかコートやらカバンやらを適当にデスク上に投げ置いてとりあえず体を会議に間に合わせようと必死で私の存在になんて気づいちゃいない。

「今日の会議室どこ?」
「D、D室!」
「なまえ!」
「お疲れ様、おかえりなさーい」
「いいもん持ってんな、俺もコーヒー」
「オイラ冷たいの!うん!」
「…はーい」

こりゃ、会議のスタートちょっとズレそうだな。
そう思った私は、とりあえずD会議室に内線を飛ばして「デイダラとサソリが今帰ってきたから少し遅くなる」と告げ、また給湯室に戻る。本日2度目のコーヒーの香りを堪能して(たぶんカプチーノにしたら流石に怒られそうだからここでは我慢)、デイダラの注文に関してはもうよくわからなかったので適当に好きそうな炭酸飲料を自販機から選んで買っておいた。冷たいことに変わりはないので文句は言われまい。

「なまえー、先行ってるからな、さんきゅー」
「はーい」

帰ってきた時と同じくバタバタとオフィスを出て行く2人に少し遅れて、私もそこを出て会議室へと向かう。
ドアを開ければ、すっかり帰ってきたばかりの2人の営業結果報告が始まっていた。

「今回のとこは電話で結構話してたからすんなり行けたぞ、なあデイダラ」
「うん!来月から取引先に追加しておいてくれ、契約書はもう置いてきた」
「すごいじゃん!やるー!」
「…なまえさん、またミルク作りましたね」
「あ、ばれた」
「まあいいですけど。ありがとうございます。」
「ありがとう。」
「悪いな」
「はーい」
「オイラは?オイラは?」
「三ツ矢サイダー!」
「さんきゅー!」

どうやら、ハズレではなかったらしい。よかったよかった。
まだ少し息が乱れている営業組が落ち着いた頃、ようやく会議はスタートした。先月がどうで、今月はどうだったのか。来月はどう動くのか。意外と真面目な話し合いに火がついて、16時開始、17時終了予定だったものが気づけばもう18時半を回っている。あちゃー、定時を過ぎた。こりゃ今日は残業かなあ。そう思いながらチラリと腕時計を覗いたところを、正面のイタチに見つかった。彼はメモ代わりにしていたB5のコピー用紙に何かを書いてこっそり私へ滑らせる。

【今夜なにか用事でもあるのか?】

なにもないよ、口パクでそう言ってにこりと笑った私に納得したのか、その紙を引っ込めて頷いたイタチ。
直後、パン!と両手を叩いて立ち上がったデイダラに思わず驚いてそちらの方を向けば、嫌というほど眩しい笑顔を浮かべている。ああ、これはいつもの展開になりそうだ。

「よし!じゃーさ、粗方話し合ったし、もうすぐ19時になるし、続きは飲み屋で話そうぜ、うん!」
「あー、…ま、今日金曜だしな、それもありか」
「お腹も空きましたしねェ、私はそれでいいですよ」
「お前らもそれでいいんだろ?」
「いつものとこでしょ?デイダラ先に行って個室確保しといてね」
「おう!そうと決まりゃあ猛ダッシュだな!行くぞサソリの旦那ァ!」
「なんでお前はいつも俺を道連れにすんだよ!おい!」
「仕方ないですねェ、私も付き合いますよ、ほら急いでください」
「なまえ!片付けよろしくな!うん!」
「はいはい!…ったく、しょうがない人たち…」

慌ただしく会議室を出ていった同僚たちを横目に、まあ金曜日だからいいか、とサソリが言ったのと同じようなセリフを口にして資料が散らかり放題の机上を片付けていく。
今夜はきっとこのまま朝までコースか、そうでなくとも終電を逃すことはほぼ確定だ。
片付けを手伝ってくれていたイタチの手からマグカップを受け取り、トレイに乗せて持ち上げる。早く追いつかないと、彼らはきっと空腹に耐え兼ねて先に乾杯をしてしまうだろうから、なんとしてでもそれまでには合流しなければ。

「…あ、そうだ、イタチ」
「なんだ?」
「いいよ」
「ああ、そうか。」
「うん」
「……」

いつもの飲み屋に行く前にマグカップを洗って、コンビニに行ってお金を多めにおろして、…やばい、早くしないと危ない。
放心状態で突っ立っているイタチに「消灯はお願いね」と告げて一足先に会議室をあとにする。後ろのドアがパタンと閉まったあと、ああ、この同僚メンバーでは今夜が今年の飲み納めかなあ、なんて考えた。

「え!?!?」

さ、今年も残りわずか、まだまだ思い出作ろうか。


SURPRISE

「え!?…今のって…え!?」


(20141226)

   

[ back ]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -