伝えたいこと


(現パロ)


肌寒い風が吹く、秋。
私は暖房のついていない部屋で1人、手紙を書いていた。少しかじかみはじめた手をさすりながら便箋と睨めっこをしながらも、心だけはふつふつと暖かい。

突然のお手紙ごめんなさい。

そんな控えめな一言で始まった文章は、そこからまだちっとも進む様子がなかった。
いや、だって、人生で初めてなんだ。好きな人に手紙を送るなんて。相手は中学、高校の時の同級生、でも大学進学に伴ってこうして離れ離れになってしまってからは連絡もろくにとっていなかったし、その連絡先だって高校3年生の時にやっと手に入れたほどだった。そう言えば、その時もこんな季節だったような。
なんで突然そんな告白をしようと思い立ったかといえば、新生活にもようやく慣れ、少し余裕が出てきたから、って、なんとも色気も可愛げもない理由なんだけれど。
煮詰まった頭に少し休憩しようかと椅子から立ち上がり、先日実家から届いた梨に包丁を入れる。皮をむいて切ったそれをしゃくしゃくと食べながら、やはり友達の言うとおりメールで送ってしまおうかなんて気持ちも浮かぶ。だけど、なんだかメールで送った文章は軽々しくなってしまいそうで嫌なんだ。こう、上手くは言い表せられないけれど、メールか手紙だったら、手紙の方が気持ちが伝わる気がする。ああでも、重いと思われてしまったらそれまでなのか。…うーん。確かに、突然の手紙が「好きです」だけだったら、当然驚くと言うかなんというか、やっぱり、重い、かな。
ふと、携帯を右手に取る。一応、文章を打つだけでも打ってみようか。送らないなら送らないで、その文章をそのまま手紙に使ったらいいんだ。

「突然のメールごめんなさい…、今日は、伝えたいことがあって…んー…」

伝えたいことがある、なんて言ったら、聡い彼はすぐに気付いてしまうだろうか。勘付かれてそのまま着信拒否、とか。いやいや、そんなことする人じゃない。
携帯の画面としばらく向き合って、悩んで、考えて。もし自分が言われるんだとしたら、こんな無機質な画面からの文字じゃなくて、やっぱり手紙の方がいいかもしれない。そう思い直して、作りかけのメールを消去した。

はずだった。


【送信完了しました】


一息ついてから確認した携帯の画面には、一瞬だけ絶望的な文字が浮かんで消えた。

「え!?」

慌てて送信ボックスを確認する。今のは完全に見間違い…なんかじゃなくて、ボタンの押し間違いだったらしい。しっかり送信されてしまったそれの送信先は、何故そこまで打ち込んでいたのか自分でも謎だけれど、ちゃっかりしっかり想い人で。誤送信してしまった作りかけのメールは「伝えたいことがあってメールしました」までで終わっているけれど、その”伝えたいこと”を追求されるのは目に見えている。どうしよう、今から追加で間違って送ってしまったんだってメールしようか。宛先そのものを間違えたって言えば、きっと大丈夫なはず。
少し震える手で新規メール作成ボタンを押した瞬間、携帯のバイブレーションが鳴り響いた。

「電話!?」

ま、まさかの電話、しかも、今さっきメールを送ってしまった彼からだ。
メールを送ったばかりなのに電話に出れないなんて、あるだろうか。いや、ないでしょう。もうどうしたって逃げられない窮地に立たされながら、私は死刑宣告を受ける罪人のような面持ちで携帯の通話ボタンを押し、ゆっくりと耳にあてた。

「久しぶりだな、元気にしてるか?」
「う、うん、イタチくんは?」
「変わりない。」
「そう、ならよかった」
「さっきのメールが、気になってな」
「あ、ああああ、うん」
「それと、俺も伝えたいことがあるんだ」
「…え、」
「でも、電話じゃなくて直接伝えたいから、今月の3連休にそっちに遊びに行く」
「え、そんな、」
「距離もそこまでないし、そっちの大学に通っている友人がいてな、宿がないわけじゃないんだ。」
「あ、そ、そうなの」
「伝えたいこと、その時に聞かせてくれ」
「え?あっ、あれは」
「じゃあ、詳しいことは後でメールする。」

矢のように過ぎ去った会話に、しばらく放心する。
え?イタチくんがこっちに遊びに来る?と言うか、会う、の?突然のことに頭が追いつかない。
と言うか、今月の3連休って…今週末だ!!
すっかり「伝えたいこと」どころじゃなくなった私は、とりあえず手帳に予定を書き入れてクローゼットを漁る。
そして何が起きるかわからない週末に胸を高鳴らせるのだった。


(20141110)



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