※現代パロディ
※高校生
※寮制学校に通っていると思ってください




「池田、池田いるか?」

明朝に池田の部屋をノックする音が響いた。池田は、こんな朝早くに非常識な…、と眉をしかめることもなく扉を開けようとふとんから跳び起きた。

「はい!います!」

扉を開けるとそこには池田の恋人である富松作兵衛が立っていた。池田と富松は恋人同士ではあるものの、富松は異常に照れ性な性格のため、部屋に訪れるのはもちろんのこと、手を繋ぐことすら拒み、ましてや池田にすきだと言ったことすらないのである。そんな富松が(いくら朝四時だとしても)自分の部屋を訪れてきてくれたのだ。池田はうれしさではちきれそうであった。

「おはよう…」
「お、おはようございます」

そう言ったきり富松は池田の顔を見つめたまま黙ってしまった。

「あの…、俺に何か用でも…?」

池田が不審に思って訊いてみたら、富松は目を逸らし、べつに用はねぇけど…、と話し始めた。

「急におまえに会いたくなったから……」

すまねぇ。じゃましたな。それだけ言って富松は去ってしまった。

「……………………………………夢だな」

池田はしばらく逡巡した後にそう結論した。富松が、あのキスをしようとしたら泣いてまで拒絶した富松が、そんな事をわざわざ自分の部屋を訪れてまで言うはずがない。ああ、でも、残念だった。あれが本当の先輩だったらよかったのに…。池田は、自分はどれだけ愛に飢えているんだ…、と少し凹んだ。

「池田、隣いいか?」

翌朝、池田は夢を思い出しながら、食堂へ向かった。川西に、俺は愛に飢えているらしい。と言ったら、知らなかったのか。と言われてまた凹んだ。先輩に会ったら恥ずかしいなぁ…。と考えながらみそ汁を飲んでいた矢先に富松が食堂に現れた。しかし、いつもの富松ならば池田を無視するのだが、今日はちがった。おばちゃんからトレイを受け取った富松はまっすぐ池田に向かい、池田、隣いいか?と言ったのである。こんなことは異例であった。とりあえず池田と富松がつきあう前もそして後もこんなことはなかった。食堂中が固まる中、富松はごく自然に池田の隣に座り、みそ汁をすすった。池田は頬を思いっきりつねった。痛かった。

(どうなってるんだ、今日は……………)

川西は嘆息した。今日の富松はおかしい。朝から放課後までずっと池田に会いにくるのだ。あのいつもボコボコにし悪口を言いまくっている池田にである。なんであいつらつきあってんだろ…。と疑問に思われるほどのケンカップルである池田と富松だったが、今日はちがった。富松が休み時間のたびに池田に会いにくる、昼休みに手作りの弁当をもってくる、さらにそれをいっしょに食べる、さらに、さらに、さらに、

「先輩が初めて俺にすきって言ってくれたんだ……」

だめだ。今日、地球は滅亡する。川西は確信した。そんなことも知らずに池田は、さっき屋上でキスした後にもさぁ…、などとのろけている。満面の笑みである。俺は今とてつもなく幸せだ!と体中で叫んでいる。幸せオーラ全開の人間ほど気の障る奴はいない。本当なら殴ってやりたいところだが、これまでの池田の不遇を知っているクラスメイトたちは見て見ぬフリをしてくれている。しかし、目の前でのろけられている川西はたまったものではなかった。

(おかしい。おかしい。絶対におかしい)

川西は考えた。考えに考えた。そして、ある結論に辿りついた。川西は考えた。この結論を目の前の友人に言うべきなのか。

「………富松先輩、トイレ長いな」
「あいつはいつもそうなんだよ」
「………あいつ?」
「作兵衛のことだよ」

この完全に調子づいた態度に川西はキレた。いつもはヘタレチキンのくせしやがって!と口調が荒れるほどイラついた。言うぞ。言うぞ。ざまぁみろ!……川西は悪くない。悪いのは池田である。

「なぁ、三郎次、今日は何日だ?」
「は?今日は………………………………」

池田の顔がみるみる強張っていく。川西は池田を無表情に見つめる。

「なぁ、おい、もしかして………………」

池田三郎次は至福の時を味わっていたのだ。そう。今この瞬間までは確かに。

「………………………………四月一日?」
「そうだ。今日は、」

エイプリルフールだ。

冗談きつい。そう言って池田は泣いた。

―――――――――――――――――――

四月馬鹿』さんに提出させていただきました。ありがとうございました。 33

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -