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冬の日臼速SS

冷たい風を感じて体が震える。冬のひやりとした空気は、部屋の隙間から入ってきては速瀬を包もうと流れてくる。
(…、もうふ、)
けれどもわざわざ灯りをつけに行くのは寒くて億劫で、手探りで寝る前には肩までしっかり被っていたそれを探す。と、その時、温い何かが手に触れた。
「…はやせ…?」
暗がりでよく見えないが、聞き慣れた穏やかな声に速瀬はその理由をあまり動かない頭で考えて、そうだ、昨夜はなんとなく一人で寝たくなくて臼井の部屋に潜り込んだのだという事を思いだした。
(…らっきー、)
臼井もおそらくまだ覚醒しきっていないのだろううつろな呼びかけだったのを良い事に、そのままその身体に腕を伸ばして、暖かな胸に潜り込む。普段なら少しだけ自分の方が(本当に僅かなものだが)大きい背を、こうしてしまえば全く気にならない事に気付いてから、速瀬は横になって臼井の顔を覗き込むのが好きだった。
「…ん、冷えてるな…」
「え、あ、」
「えっと…ああ、これだ」
速瀬のからだが、思っていたより冷えていたのか臼井は先程より覚醒したらしい瞳でわずかに咎め、けれども本来の速瀬の目的だったはずの毛布を手繰り寄せてそっとかけてくれる。
(あ、…ったけぇ、)
そうして、臼井の腕と暖かな毛布に包まれ、じわりと胸に広がる感覚にたまらなくなる。
カーテン越しの窓から差し込む月明かりによって少しだけ慣れた目に映るのは綺麗な顔の青年で、そんな彼が自分の恋人なんだと思うと眠いはずなのになぜか胸が酷く騒ぎ始める。
「…うすい、」
ロクに出ない声で拙いながらに名を呼べば、けれども彼はゆっくりと瞳をこちらに向けた。
「…どうした?」
まだ寝ていられる時間だろう、はやせ。
そう言って自分の名前を呼ぶ声が、どことなくいつもより甘くて、優しくて。
(…すき、すきだ、臼井、)
溢れそうになる感情に、けれどもそれを全て吐き出す事も出来ずに、速瀬は小さく、とても小さく音を零す。
「…俺いま、すっげー幸せな気分だよ臼井、」
聞こえるかと不安だったけれど、静まり返った寝室では不要の心配だったようで、臼井はふ、と笑みを浮かべて速瀬を抱きしめる力を少しだけ強めた。
「…俺も、幸せだよ速瀬」
「…っ…」
覗き込まれながら、優しく囁かれた言葉に先程とはうってかわって熱く感じる身体はかけてもらった毛布のせいだと誰にいうでもない言い訳を零して、不思議そうに首を傾げた臼井には「なんでもない」と伝えたまままたこちらからも抱きしめ返す。
「…おやすみ速瀬」
「…おー、おやすみ、臼井」
そうして、柔らかく頭を撫でてくれる臼井の手に一度だけ深呼吸して、速瀬は再び眠りに沈むことにした。







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