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臼速で記憶喪失妄想
普通の記憶喪失ネタなら付き合ってる臼速で、臼井が記憶を失くしてしまって、だけど速瀬としては臼井の未来を考えたら別れた方が良いんだ、臼井はちゃんと女の子と結婚して家庭を持つべきだって思ってるから何も言わずに手放して友達に戻って、だけど記憶を取り戻した臼井がそれに対してキレるみたいな。
それで速瀬がグダグダ言うんだけど結局は好きだし臼井が「俺はお前で良いんだ」っていうから元サヤ!って感じのがテンプレかなって感じなんだけども。
速瀬の事が好きなんだけど速瀬は普通に女の子が好きで、手に入れたいのに無理矢理どうこうする事も出来なくてずっとくすぶり続けていたところで速瀬が怪我か事故で高校に入ってからの記憶がすっぽり抜けちゃって、それをチャンスにして自分が恋人だったって偽って既成事実を作る臼井とかね…。
皆とお見舞いに行った時に、チームメイトを誰一人覚えてなくて皆戸惑うんだけど、臼井だけはその事実に高揚していて、皆がじゃあ、また来るからなって部屋から出ても残ってて、速瀬は「えっと…、」って困ったように覗き込むんだけど、そっと隣に腰をおろして「…臼井だよ。臼井雄太」って。
「うすい、」
「うん」
「…わ、悪い…ほんとに俺ー」
「いや。構わない。状況はさっきも聞いたし。…ただ、本当に何も覚えてないのかと思って」
「何もって…?」
「…、俺たちが、恋人だったって事」
「…、は…?」
「ああ、でも誰も知らないんだ。男同士だからな…。内緒で付き合ってた」
は!?って驚いて、だけど(本当に…?)って視線をさまよわせる速瀬に臼井は大丈夫だって確信する。ああ、これは確実にチャンスだって。
ずっと欲しくて仕方なかった速瀬を手に入れる事が出来るって事実に、震えて仕方なくて、だけどそんな臼井に速瀬は「わ、悪い、あの俺、」って完全に信じちゃって。
「いや、良いんだ。…元々、誰にも言えなかった関係だし、…速瀬は忘れたかった事なのかもしれない」
「っ…で、でも付き合ってたんだろ…!?」
「付き合ってたけど、速瀬は好きじゃなかったかもしれない」
「ま、待てよ、なんでそんな事ーっ…!」
「だってそうだろ?恋人の事も、覚えてない」
そう言われてグッと噛みしめる速瀬に、だけど臼井はじわじわと喜びばかりが広がって。
「…聞きたかったのは、それだけなんだ。すまない」
そう言って帰ろうとする臼井に、速瀬は慌てて呼び止めて
「待てよ…!お、思い出す…!ちゃんと、思い出すから、待ってくれ…」
そう言って必死に顔を歪めて。
速瀬にとっても記憶を失くした状況は不安ばかりで、そんな中で恋人がいたって事実はきっとすごい重要な事で、例えそれが男だとしても付き合ってた以上はちゃんと好き合ってたんだろうし、臼井は見た目だけでも真っ直ぐな男に見えるし綺麗だから、本当に臼井と付き合ってたなら思い出したいと思うはずで、だから、待ってくれ、ちゃんと思い出すから、別れるとか言わないでくれ。って引き止めようと腕を掴む手のひらはじんわり熱くて、ああ、ってなる臼井。
勿論騙してる罪悪感もあるし、これからの速瀬の人生に関わる問題だし、もしすぐに思い出してしまった場合は今までの関係にヒビも入る。それでも。
(それでも、俺はお前が欲しいんだ、速瀬)
って、その手をぎゅっと握り直して、
「…わかった。なら、一緒に記憶を取り戻せるように頑張ろう」
って笑うから。
速瀬も心底安心したみたいに「…ああ、よろしく」って笑うんだよ。
そうやって、ひっそりと記憶を取り戻す為という名目の嘘のお付き合いが始まって。
勿論付き合ってた事実は無いし、周りに知られてもいけないからその事は二人だけの秘密で。
臼井からしたらそれだけでもきっとすごく嬉しい事だと思うのね。
だって、大好きだった速瀬と秘密を共有しているんだから。
「なぁ臼井」
「ん?」
「…何か、残ってないのか。写真とか、二人で買ったものとか、そういう、…少しでも、思い出すきっかけになりそうなもの」
そう言われて一瞬ギクリとするけど、「…誰にも、知られないように付き合ってたからな。…悪いけど、何も無いよ」って返して。
「…そっか」って。
速瀬は必死に記憶を取り戻そうとしてて、だけどそれはただ生活する上で支障があるからって理由だけじゃなくて、臼井に対しての負い目から来るものも沢山あって、だからこそ臼井は速瀬が思い出そうとする度に罪悪感に苛まれるけど、それでもそれをやめようとは思わなくて、ずっと嘘を吐き続けるのね。
そうやって多少困る事はあっても皆にフォローしてもらいながら学校にまた普通に通い始めて。体は覚えてるからサッカーをやるのにも問題はなくて、そこでふと思いつく速瀬。
記憶は失くなってても体が覚えてるなら、臼井の事も覚えてるんじゃないのか?もしかしたらそれがきっかけになるんじゃ、って。
「なぁ臼井、俺たちって、結構付き合って長いのか?」
「…どうしたんだいきなり」
「や、…俺、高校に入ってからの記憶が抜けてるから、その、もしかして結構前から付き合ってるのかなって」
「…そうだな。付き合い始めたのは3年になってからだよ」
「…3年になってから…そっか、…ふーん…」
煮え切らない様子の速瀬に「だから、それがどうかしたのか」って問う臼井。もしかして、何か思い出したりしたのかって不安になる臼井をよそに、速瀬はちょっとだけ言いづらそうに、だけど顔を赤くしながら「俺たち、さ…どこまで、…やったのかなって」って呟くから臼井も伝染したみたいに赤くなって。
「っ…ど、どこまでって…」
「付き合ってたなら、…さ、流石に何もしてないわけじゃねーんだろ?…その、仮にもヤりたい盛りの高校生じゃん。…気になって調べたりとかしたけど、男同士でも出来るっぽいし」
「調べたのか…」
「っ…悪いかよ…」
「…いや。…でも、キスしかしてないよ」
「!」
臼井は瞬間的に欲が出そうになったけど流石にそこまでは、それこそ、それはやっぱりちゃんと初めてを大事にしたい気持ちもあって。
「…キスは、してたんだ」
「…してみるか?」
「っ…」
「…冗談だ。流石に今のお前は俺を好きなわけじゃー」
「する」
「…速瀬、」
「きっかけに、なるかも」
だけどそうやって速瀬が必死になるから。
(ああ、いっそ最後までしたんだって言えば良かったか)
なんて思いながら、そっと震えるその手を握り締めて。
「…無理してないか」
「…し、てない、わけじゃねーけど、でも、…俺はちゃんと思い出したいからさ」
「…(思い出なんて何も無いのに)」
じくじくと痛む胸に知らないふりをして、目を閉じる速瀬に心の中で(ごめん)って謝りながらそっと触れた唇は思ったよりかさついてて、甘い匂いもしなくて、だけどそれが速瀬なんだって思うとたまらなくなって。
「…、どうだ?何か…、」
なんて、思い出すはずもないのにそんな事を聞いたりして。
ああ、触れてしまった。速瀬と、キスをしてしまったって思う臼井に、だけどそんな思いなんて知らない速瀬は少し視線をさまよわせて後に「…そんな風に、触れたかどうかもわかんねーみたいなキスばっかしてたのか」なんて伺ってくるから、煽られてしまって。
「…お前も大概、意地が悪いな」って。
そう言いながら、今度はちゃんとその唇に押し当てて、食んで、薄く目を開けば期待するみたいに見つめる速瀬と視線が絡んで、(もう、どうにでもなってしまえ)なんて思いながらそっと開かれた唇に舌を差し込んで。
そうやって、わけがわからなくなるくらいにキスをしてもう一度「どうだ」って。
だけどそんなキスをした事も無いし、思い出せる記憶なんてあるはずがないから「…悪い、何も、」って申し訳なさそうにする速瀬に(謝るのは、俺の方なんだ)って思いながらも「焦る必要は無いさ。…俺としては、久々にお前に触れられて嬉しいよ」って涼しい顔で笑って。
そんな臼井の言葉に速瀬は真っ赤になって「ほんっとお前…!」って睨みつけながらも、「…でも、なんだろう、やっぱ体が覚えてんのかな。お前とキスすんの、すげー気持ち良かった」って呟いて。驚く臼井に「…早く思い出すから、待っててくれ臼井」って笑うから、臼井は本格的に罪悪感がつのってくる。
だけど、好きな人にそんな事言われてその先を望むなって方が無理で、どうしようもなく愛しくて、結局少しずつ、少しずつ嘘が蓄積されていってしまって、それでもやめる事は出来ない臼井。きっともうその選択肢は残されていないから。
…そうやって嘘を吐いて、その先はどうなってしまうんだろうね。
速瀬がずっと思い出さなくて臼井が罪悪感を抱えたまま一緒に寄り添う二人も可愛いし思い出して今までの事を理解した速瀬に拒絶されてそこで関係が終わってしまう二人もありだし思い出して理解して騙してた臼井を拒絶したいのに嘘だとしてもずっと側にいてくれたって思いからちゃんとやり直す二人もすき。
うちの臼速だと速瀬がチョロいんで一番最後ですだらだらすいませんでした楽しかったです。