上続き 「帰ったぞー」 次の日の昼頃に、銀時が帰ってきた。 「銀さん、待ってたんです。さ、早く入って下さい」 「おいおい、引っ張るなって、どうしたよ?」 引きずられて入ったリビング、ソファの上には膝を抱えて丸くなった神楽がいた。 「お、その様子は我慢してちゃんと待ってたんだな」 「違うアル。私悪い女ヨ。我慢が出来なくて手を出したアル」 神楽の一言に、まさかと銀時は慌てて台所に走っていった。 「ほんと分からないんだけど…」 そう新八は呟くと、再びリビングに戻って来た銀時に、何があったんですかと説明を求めた。 ー 回想 ー 電話をかけ始めて20分、銀時と神楽は電話越しに怒鳴りあっていた。 「だから、お前が言っている練りきりは依頼の品なの!依頼人に渡す物なんだから勝手に食っちゃ駄目だって、さっきから言ってんだろーが!」 「だったら机の上になんかおくんじゃねーヨ!たまたま私が銀ちゃんも食べるかなって仏心を出して電話しなかったら、知らずに食べてたアル!」 「確かに説明しないで置きっぱなしにしてたのは少し悪かったとは思うけどよ、分かれよな。もう一つの依頼の期限が迫ってたんだよ!品物を置いた足で向かわなきゃ間に合わなかったんだって!」 「もう食べるアルよ!銀ちゃんに電話何かするんじゃなかったネ!」 「待て待て!分かった、交換条件を出そう!お前が食べずに我慢出来たら、酢昆布を3箱買ってやる!約束する!だから絶対に食べちゃ駄目だかんね!」 今まさに食べようと、神楽が机の上の和菓子に手を伸ばしたのが銀時にも分かったのだろう、その手を止めるべく口を開き慌てて捲し立てた。 普通の和菓子ならば、銀時もここまで慌てて止めてはいない。 そう、神楽が狙っていたのは入手困難かつ超が付くほどの高級和菓子様なのだ。 今流行りの店の品で、細かい細工を施された淡い朱色の練りきりは、秋の空を散りゆく紅葉を再現するかのように湾曲し、葉の先には黄金色の金粉がちりばめられていた。 細やかな職人の技と、一つ一つにちりばめられた金粉が、和菓子の値段を上げたのだろう。 15個入りのそれは、銀時が同時に受けたもう一つの依頼の料金とどっこいどっこいなお値段だった。 そして、何より問題なのは入手の難易度だ。 高額なのを差し引いても、半年先まで埋まる沢山の予約数。 どんだけ人気があるんだ…。 たまたま予約していた知り合いがいなきゃすぐには手に入らなかっただろう。 その知り合いもさ、一個しか注文してなかったみたいだけどよぉ、「銀さんになら私の全てをあげるわ!」って体ごと差し出してきたよ。 体うんぬんはいらねぇから、菓子だけ有り難く頂戴して帰ったけどな。 俺も暇じゃねぇんだよ。次の依頼が差し迫ってたんだよ。 「酢昆布5箱にするネ」 「分かった5箱でも6箱でも買ったげるから。ぜっっったいに、食べるんじゃねーぞ!」 その約束が彼女にとって破格の条件だったとしても、目の前にあるお菓子はあまりにも目に毒だったのだったようで、答える返事も思わしくない。 「ねぇ、銀ちゃん。私が食べないようにしばらく電話でついててヨ」 「はぁ?俺、まだ仕事が残ってんだけど」 「少しでいいから、じゃないと今すぐにでも食べちゃうネ」 「分かったから!んじゃ少しだけだぞ」 そう言って話し始めたが、話題が最近流行りのドラマに変わり、ハマっているためか神楽の声も興奮で大きくなってきた。 「この前のピン子の演技はイマイチだったネ。あれなら私も出来るアル」 「いやいや、あの人は超大物俳優だからね。お前なんかが逆立ちしたって彼女の半分も演じきれねぇって。魅力半減だっつーの」 続く (12/65) |